2024/3/30(土)21時~23時@Xスペースにて開催されたオンラインワークショップ、「文芸意見交換会7_テーマ・箱」
「箱」にそって書かれた1000文字以下の新作文芸作品を持ち寄り、読み合い、作品をよりよくするための意見交換をしました。
ここでは簡単な開催レポートと、各人の感想を掲載いたします。先に参加作品をお読み頂くと、以降をより一層楽しめますよ。
はじまり
開始10分前から徐々に参加者さんがXスペースにログインし、お喋りの準備体操。
参加の動機や経緯など雑談、なごやかに。ついでにスピーカーやマイクの調整をする方も。通話をする際はマイクがスピーカーから発される音を拾ってしまわないよう、イヤホンやヘッドホンの利用を推奨しています。
開始時刻となり、会の概要説明と主催・花村さんからのご挨拶を経て、ワークショップスタート。
最初に提出してくださった方の作品から、意見交換会を開始。この次に作品を取り上げられる方が、意見交換の口火を切ってくださいます。誰もが一度はトップバッターを務める仕組みですね。
感想ログ
※敬称略
なな『金魚の箱庭』
図らずも、慣れている主催・花村さんが発話のトップバッター。
作品の文字数上限が1000文字というのが、けっこうキツい縛りになっているよね。でも文字数が限られているからこそ活きる表現があるよね……という会話が印象的でした。
ほの暗い恐怖感があって良かったです。 文章で不思議さとか現実感のなさの、表現方法が巧みだなと思いました。
・良い予感も悪い予感もない、昼寝のあいだに見る夢のような感じ。娘が金魚になり気づいたら自分も金魚になっている、とあらすじだけなら不穏だが、これからどうしようというような現在や未来への言及がなく、おそらく現実ではないのだろうなと思う
・会話文にかぎかっこが使われていないことから、なんとなく声を伴わず、思考でやりとりしているような気がする。水槽のまえで両肘をついて金魚になった娘を目で追っているイメージ
・「そんなに長い時間を……願ったりしないだろうか。」
金魚になってしまったゆうこに対する疑問なのか、金魚そのものに対する疑問なのかわからない。これまでの流れだとゆうこへの疑問と読めるが、「もっと広い世界を……」がややひっかかる。現在のゆうこは楽しそうなので、頭に「いずれ」等未来を示唆する言葉がつくとよいのかも?
・「最初は6匹いた……2匹となっていた」
好き。「一人1回500円で……167円ぐらい」という金額の詳しい描写が母親という感じ。そのあとに「みかん色の、小さくてかわいい魚たち」と漠然とした金魚のイメージが来るのも緩急があってよい。夢特有のこまかいところと雑なところがある感じ。金魚が死んだ記憶に対して感情の動きが鈍いところも夢ぽい。「みかん色の、小さくて……死んでしまったりで」の読点の打ち方が詩的で好き
・「きんぎょはふなからつくられた……さかななのだ」
改行のない地の文なのでひらがなにひらかなくてもよいかも?
・「へー、としか答えられない」
純粋に知識を披露してくれたゆうこに対し、それをただの知識として受け止められなかった感じ。ゆうこが自分で調べて教えてくれたという喜びと「人間のエゴで……恐ろしい気持ち」で複雑な感情になっているのだろうなと思う。はずんだ声で教えてくれるゆうこと、次のことばが出てこずかたまっている主人公が思い浮かぶ
・「金魚からゆうこの声が……たゆたっていることに気づいた」
劇的な何かがなく、ぬるっと自分が金魚になっていると気づくところが好き
・「金魚。あの、みかん色の小さな」
二匹いるうちのもうかたほうになったのだ、という気づきが言外にある感じ
・「決められた場所を泳ぐ……およぐ」
「でも、この感覚は……おこがましさだ」を回収している。これまでの〈死ぬまで小さな水槽のなかですごすことが恐ろしい〉という人間としての感性を失い、〈水のなかで泳ぐことは気持ち良い〉という単純な快楽しか感じなくなっている。金魚であるかぎり、人間のときに感じた〈水槽ですごしつづけることへの恐怖〉も持たないのだろうなと思う。漢字だった「泳ぐ」が「およいで」にひらいているところが人間性の喪失ぽくて好き
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花村渺『メタモる -受胎-』
ワークショップの主催・花村さんの作品。
感想の多寡に優劣はない、という話題が。
感想の文字数が多いか少ないかより、抱いた感想が「ある」こと自体を大事にしたい。そして各人の抱いた感想を忌憚なく共有できる場を今後もつくってゆきたいと、主催/運営ともに再確認するひとコマでした。
色々な受け取り方が出来て面白そうだと思いました。 私はコトリバコ的なホラー? ミステリー? 的な受け取り方をしました。
・すごく上質なホラー作品。面白かった。
・怖さの正体が書かれていないのに、怖いと思わされてしまっているのが面白い(実は箱があいても何も起きない、出てこないかもしれない)。
・最初に箱のサイズが具体的に書かれていて良かった(幅15cmは持ち運び結構きついかも?)
・最初の方の「かたむけるとかろかろと、いびつなひとつぶがころがってゆく音がする。」、最後の一文「まといはじめた肉を削ぐ。」の文章が好き。
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円山すばる『箱いっぱいのバナナをあなたに』
「良いポイントを発見するのがうまい人、作品のもつ雰囲気を掴んで伝えるのがうまい人、作品と現実とのリンクしている部分を発見するのがうまい人、文字の意味や用法について検討するのがうまい人……それぞれに得意な『感想』の分野があるのだなと感じる」という話に。
また「文語と口語のバランスを考えることの重要性」「自分の好みを知る作業も必要」という話題も盛り上がりました。
・「ウェンロとマオが……昔話をはじめた」
好き。人名とポポの語り口でこれからはじまるものがたりの雰囲気をつかむことができる
・「グランマ・ポポはそう言って……皆神妙な顔をしていた」
「彼女の」がややくどいかも。ポポに焦点が合っているので省いてもよい気がする(孫/その手/親類縁者)
・「暖かい日」「しおからい風」「(次の段落の)浜辺」
あかるくおだやかな一日であることがわかる。遠く波音も聞こえてきそうな感じ
ポポたちがいる空間のおだやかでやさしい雰囲気が伝わる。ポポの死を待つ悲しい場面だが、悲痛になりすぎず、やすらかにさいごのときをすごしているのがわかる
・「暖かい日が昇っていた」「暖かい日差しが降り注ぎ」「暖かい部屋」「温かな日が差して」と類似した表現が多い。「日」はウェンロたちの到着を示唆するもの(「今日はやけに日が強いのねえ」)として多用しているのだろうか? いくつか言い回しを変えるとよいかも
・「しおからい風が……吹き込んでいた」
「風」が続くのが気になる。「少し風通しの良い家」がどんな家か想像しにくいので、その描写があるとよいかも。ひらいた窓から吹きこんでいるのか、ドアや壁のすきまから吹きこんでいるのか
・「その一週間の最後の日……弔うためでもあった」
「その」と「この」が続く。どこか削るか、言い回しを変えたほうがいいかも
・「宇宙からバナナを探しに来たの」
とても印象的で心つかまれるせりふ。ほかのどのくだものでもなく、バナナというのがなんだかよい。あざやかな黄色がパッと浮かび、特別な過去の目印として輝いている感じ。
・「あの人たちの星には……あまりなかったのね」
ウェンロたちの星の治安が悪く、貧しいことがわかる。おだやかな雰囲気を崩さずに表現されているのがすごい
・「この素朴な……箱を返しに来ます」
絶対そんな意図はないのだろうけどなんだかちょっと嫌味ぽいので、「素朴な」はないほうがよいかも。つけるなら地の文のほうがよい
・「写真に窓から差し込む温かな日が差して、古いそれをはっきりと照らす」
温かな→暖かな? 「差し」がつづくので「暖かな日が写真に差し」等に整理するとよいかも
・「泥棒とかじゃないのかな……?」
ウェンロたちがバナナを返しに来ないのではないか、という意味だろうけど、何に対しての泥棒なのか一瞬わからなかった。ポポはきっと「バナナをあげた」と思っていて、「バナナが返却される」のでなく「二人がまた会いにくる」ことに重点を置いていると思う。泥棒という視点はバナナの返却に傾いているので、玄孫の発言としてもすこしずれがあるかも。「また会いにくるという約束を忘れていないかな?」というニュアンスのせりふのほうがよいかも
→追記:時制の話がありましたが、個人的には「泥棒とかじゃなかったのかな?」になるとだいぶ気にならなくなります
・「今日はやけに日が強いのねえ」
その前の「やっと、来たんじゃないかしら」と合わさり、それがウェンロたちがやって来た合図なのだとわかる。それを察させるのがすごい
・「デコボコ宇宙人コンビ二人組」
コンビと二人組は同じ意味なので、二人組は省いてもよいかも
・文章の雰囲気がやさしくてあたたかい作品。
・読みやすく、作品世界に入りやすかった。
・老衰で穏やかな死を迎えようとしているグランマ・ポポから宇宙人とバナナが出てくる展開の意外性が面白かった(意外性はあるけれど作品世界に馴染んでもいて、決して世界観を壊すものではない)。
・結末をどう受け止めてよいかがわからなかった。ハッピーエンドではあると思うのだけれど、死を前にしたグランマ・ポポは結局死んでしまったのか、それとも、約束のバナナを食べて元気になったりしたのかしら、とか(それをあえて書かない現状の結末もありだと思う)。
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きはし『曾孫は魔法を使わない -第1話 イノンとカセ-』
三点リーダーや約物後の空白など、慣習的な表記を踏襲することのメリット、デメリットが話題に。このあたりは作品の掲載メディアによっても変わってきそうです。
また「人称、視点が作品内でかわってゆくこと」についても各々意見が。一風変わった視点の取り方をしている作品や、視点の変化が鮮やかな作品についての情報交換もなされていました。
主人公の喧嘩相手かとおもったら相棒になるのですね。 続きが気になります。
・世界観、設定がわかりやすい。すらすら読める
・「大仰にのたまって」
直前のせりふに大仰な感じがしない。せりふを大仰にするか、表現を変えたほうがよいかも(大仰な仕草で/そうのたまって等……)
・「物理的な重さのブツ」
語感がよくて好き。まだ持ち上げていないのになぜ重さがわかったのか?
・「こんな箱一つ……一発じゃないか」
「一つ」が続く。「初級呪文で」でよいかも
・「口を聞く」→口を利く
・「憎たらしい老人はそう吐き捨てると」
最後まで読むとボミは好々爺然としつつもとらえどころがなく老獪、その一方で孫強火な気がするので、「吐き捨てる」はちょっとイメージと違うかも? したり顔でたしなめていそう。「吐き捨てる」性格なら、もっと気難しそうな描写があるとよいかも。「憎たらしい」が下の段落にもあるので、どちらか言い回しを変えるとよいかもしれない
・「アンタがこの魔法学校の……大魔法使いが形無しだ」
ボミが正当な評価を受けていないこと、それをボミ本人がまったく気にしていないことに苛立っていることがわかる。なんだかんだ言いつつおじいちゃん好きそう
・「肩をすかし」どういう意味だろう?
・「憎たらしい笑みが見えるようだ」
いっつもそういう表情を見ているんだろうな~とわかる。イノンとボミがふだんどういうやりとりをしているのかが察せられて面白い
・「輪っかになった煙管の煙に絡めとられる」好き
・「とはいえ……障害物でしかない」
魔法が使えなくても(実際には使えるぽいが)自分の手で荷物を運ぶ必要がないていどには魔法が発達しているとわかる
・「魔法試験主席のこのオレ……いいんだぜ?」
わかりやすくうざくてよい。カセ様だとなおよい。次の「一連のセリフ」でふだんから同じことを言っているとわかる
・「いいんだぜ?の嫌な……」
?のあとは空白が必要(いいんだぜ? の嫌な……)
・「職員室のある2階から階段で一階に降り」2階→二階
・「く、は…」
三点リーダーはふたつ繋げる(……)
・「本校舎と旧校舎は数キロ離れている」
想像以上に離れていてびっくりした。もう少し近づけるか、めっちゃ遠くてうんざり! とか外の風景描写があるとよいかも
→追記:私はなんとなく五キロ前後を想像していたので、「二キロほど」等具体的な数字を出すとよいかもです
・「その姿を見て、イノンは…」
これ以降が三人称になっている。直し忘れかな。「その何よりも……」以降は三人称なら問題ないが、一人称なら不自然かも。イノンは自分で「優しく強い、圧倒的な魔法」と評するような性格ではなさそうなので
・「使ってしまったマインドポイントを……耳に心地よかった」
一人称なら「惜しんでつぶやいた言葉」等。はじめ三人称になっていることに気づかず一人称で読んでいて、なぜ「耳に心地よかった」のかわからなかったが、もしかしてこれはカセ視点だろうか?
・あの箱はイノンに魔法を使わせるためのボミの策略だったのだろうか。イノンが魔法を使えることをカセに悟らせ、ふたりにタッグを組ませるため? ボミからカセへの評価が低いのは魔法への入れ込みが強すぎることを危惧しているのかな。魔法を使いたがらないイノンと組み合わせることでお互いがお互いにとって抑止力かつ、相互作用でうまいこといくように仕向けたいのかも。そうだとしたら、それが察せられるような一文があるとよいかも
・複雑な物語設定だと思うのですが、説明的にならずに世界観などを最初の方で読者にわかりやすく伝えてくれていて読みやすい作品。
・最初の方、「魔法試験主席のこのオレ、カセが」、名前を名乗らせたかったのかなって思ってしまったので「カセ様」とか過剰な感じにした方が良いかも。
・最後の方で主人公が実際は魔法が使えるとわかるシーンが面白かった(面白かったが結構長いので、この瞬間は一瞬だったみたいな説明がないとカセはずっと苦しんでいるのでは?と時間経過が気になった)
・最後の方の文章が違和感(花村さんのご指摘で一人称から三人称になっていたせいだとわかりました)。カセは主人公のせいで苦しい目にあったので、それで「めんどうくさい」はどうなのかなと(この辺一人称と思って読んでしまったので、そのせいで誤読が発生しているかも)。
・ラストの一文の意味が取りづらかった。多分「初めての」がどこにかかっているのかがわかりづらいような(ちなみにここが三人称なのは、本文と離れているせいもあって気になりません)
おわりに
意見交換を経ての雑談。
・日常を切りとって創作に反映させるコツ
・日常に感想を持つことが大事なのかも
・鍛錬を数多くこなすことが結局は力に繋がる
……など、創作と日々の暮らしにまつわるお喋りをしつつ、お時間となりました。
▼募集中のワークショップ等
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