【開催レポ】文芸意見交換会8_テーマ・伝播
2024.07.12
2024/6/29(土)21時~23時@Xスペースにて開催されたオンラインワークショップ、「文芸意見交換会8_テーマ・伝播」
「伝播」にそって書かれた1000文字以下の新作文芸作品を持ち寄り、読み合い、作品をよりよくするための意見交換をしました。
ここでは簡単な開催レポートと、各人の感想を掲載いたします。先に参加作品をお読み頂くと、以降をより一層楽しめますよ。
はじまり
開始10分前から徐々に参加者さんがXスペースにログインし、お喋りの準備体操をしながらスピーカーやマイクの調整を。
開始時刻となり、会の概要説明と主催・花村さんからのご挨拶を経て、ワークショップスタート!
感想ログ
山本Q太郎『歩きタバコと満月』
特殊な一人称「おいら」について。最初はインパクトあるけど、読み進めると馴染んでいくよね~、と。
猫の動きや生態について、猫を飼っている人にしかわからないディティールの話もお聞きすることができました。
現実と幻想の境界があいまいなところ、響いていく音、散っていく煙など、テーマを幾重にも重ねた造りに惹かれた人が多かったようす。
ゆりなあと愉快な船さんより
・人間より人間らしいかもしれない猫たち
野良猫たちが人間のように会話をしたり、人間のような意志を持って行動しているという設定が興味を惹きました。他の野良猫の言動に対して、嫉妬心を抱いたり、批判したり、恋愛関係で不安定な感情になったり、人間以上に“人間らしく”ふるまう猫たちがユーモラスに描かれていると思いました。また、野良猫たちの興味と関心が、同じ猫だけではなく人間に対しても及んでいるところが面白いと思いました。猫のひとり(ひとり?)が「タバコのお兄さんよくみると結構イケてるんじゃない」と主人公に関心を示す台詞から、野良猫たちが同じ猫だけではなく人間の外見や雰囲気をも評価をしようとしているところが特に面白く感じました。
・主人公の造形について
主人公が野良猫たちの存在と話しかけている声に気づいて、「ついにこの日が来た」と精神的な不安定さを冗談めかして受け入れようとする様子や、野良猫たちに取り囲まれパニックに陥りながらも、犬のふりをして、しかも四つん這いになって「ワン」と吠えて猫たちを驚かせようとする様子がコミカルで面白いと思いました。
一方で主人公が置かれている状況は苦しいようで、孤独な夜の散歩や、タバコを吸いながらの独り言はある種の悲壮感というか暗さというか、があるようにも感じられるのですが、主人公の言動のコミカルさや「女の子はもちろん魚や虫にだってモテたことの無い人生だった」などの自虐的なユーモアと組み合わさることによって、深刻ではあるのだけれど、重苦しさを感じさせません。リアルな孤独の手ざわりもあるし、笑いや共感もあるしというような、お話に独特のバランス感覚があるように感じました。
・テーマへの視点
テーマから、野良猫たちの情報ネットワークやコミュニケーションを題材とする発想が面白いと思いました。地域の猫集会・猫共同体らしいものは実際にあるようだし、リーダー然とした猫が野良猫たちの中心にいるというのは現実にもあるようだし、彼らが実はその地域の猫たちの情報だけではなく近所のだいたいの人間の情報までも把握しているのでは?とか、私たちには単なる鳴き声として聞こえるけれど実は何か実のある会話をしているんだろうかとか、想像を膨らませながら読むことができました。(後で語りますが、私はこのお話は、現実と幻想の境界が曖昧になって、曖昧なままなところに最も惹かれました。)
また、タバコの匂いが広がり、それに猫たちが引き寄せられるところもテーマを表現していて、実体がなくて消えてしまうタバコの煙と、猫たちの気まぐれで移り気な性分は相性がいいと感じました。
・現実と幻想の曖昧さ
現実的な描写・場面と、非現実的な描写・場面が、線引きされることに曖昧に連続的に展開していくところが良いと思いました。猫たちが人間の言葉を話すというのは非現実的な設定ですが、話す内容や振る舞いは妙に人間らしく生々しかったり、それを受けた主人公が、幻聴だと思ったり自分の精神状態を疑ったり、正しく取り乱してくれるところも良いと思いました。読み手である自分も、主人公と一緒に現実の感覚が揺らぐような感覚を持ちながら、いつの間にか自然にこの状況を受け入れていくような、不思議な世界に引き込まれていくような感覚がありました。結局、現実なのか主人公の見ている夢なのかはわからないまま、クライマックス、主人公はやっぱり孤独で、状況は何も変わらない、変化も前進もしないというのは現実の手ざわりがあるし、そのあたりが良かったと思います。また、月夜に猫たちという舞台設定のわかりやすさや、商店街の雑然とした街並みの感じも強い絵になっていて、お話の現実と幻想のあいまいさを引き立て合っていると思いました。
花村渺さんより
・「アキラってさ……ぽいんだよね」
猫とわかる。これ以降の猫の会話がどれも俗っぽくて面白い
・「それ言ってたの……いいかもよ」
なんだか好き
・「その煙もっと嗅がせてくれない」
「嗅がせて」がちょっとひっかかる。「寄越して」とか?
・「世界は平和だし……変わらない」
一人称おいら⁉ となった。ひょうきんな感じ。現代よりもすこし昔のイメージがある
・「その場で四つん這いになり……吠えかけた」
「戸惑」→「戸惑い」。猫に対抗しようとして犬の真似をしたのか? 予想外で面白い
・猫の鳴き声の行がずらされていることで、反響だけでなく輪唱しているようにも見える
・「私を呼んだのはあんたかい?」
主人公の犬の鳴き真似で呼ばれたと思ったのか? 周囲の猫が呼んだのか? 前者の場合は猫の鳴き真似なら犬の鳴き真似で……?という疑問があり、後者ならこの発言にはならなさそう
・「どうしたんだい……騒がしい」
タイトルに満月とあるので、月の描写がもうすこしあってもよいかも
・「その無職がどうかしたのかい?」
しれっと罵倒していて好き。猫も無職と貧乏を揶揄する文化があるんだと思うと世知辛い
・「一周まわって舌なめずりをした」
「一周まわって好き」みたいな意味の「一周まわって」かと思ってしまった。その場で一周まわったともとれるので、もうすこし補足があるとよいかも
・「女の子はもちろん……人生だった」
一人称おいらで無職で、宝くじが当たる妄想をしても当たらず、釣りをしても釣れない……というキャラクターは、どこかにいそうというか、イメージがつきやすくてよい。魚はともかく虫まで引き合いに出てくるのが面白い
・「このまま猫たちと面白おかしく……だろうか」
猫にモテる→猫と面白おかしく暮らす、は筋が通っているはずだが、なぜか飛躍しているように感じる。猫と面白おかしく暮らすイメージがつかないからかも。ペット扱いとはすこし違いそうだし……。主人公は猫とのどういう暮らしを想像して「面白おかしい」と思っているのか、具体的な想像があるとよいかも
・「……ロングピースだ……ついていった」
「にきれい」→「きれい」「着いて行く」→「つ(付)いて行く」。せ、世知辛い……。差額が20円というのも相手が学生というのもしょっぱい気持ちになる。歩きタバコは自分もしていたくせに、「歩きタバコをふかしてやがる」と不快そうな言い回しに嫉妬みたいなものがにじんでいてよい
花村渺『ほたるび』
文字数制限がなかったらどうなるんだろう~と想像を掻き立てられる、大きな世界を背負っていそうな作品だよねという話から。
主人公の葛藤やストーリーの起伏、問題解決……そういった、いわゆる「エンタメ的要素」が敢えて排されているからこそ生々しく立ち上がってくる作品についても。
「固有名詞を使わずファンタジー感を出す方法」という話題も盛り上がりました。
ゆりなあと愉快な船さんより
・設定の効果
ホタルを飲み込むことで、ホタルのように体内が発光するという設定が、設定としても、この物語の象徴としても、全体にわたって効果的に効いていると思いました。さらに、飲み込む・体内が発光するという現象を視覚的に、ビジュアルで捉えているシーンだけではなくて、主人公と思わしい人物が初めてホタルを飲みこんだときの印象を語っていたり、子どもたちが光っているお腹を見せ合って笑い合うエピソードがあったりなど、個人の思い出や体感からも描かれているところが、よりわかりやすく伝わるし、よりこのお話の世界観を強化していると思いました。
・スケールが大きくて、かつ平和である
「隣の星からもたらされた知識」や「親切な使者」など友好的な星間交流があることが明示される始まりから、暗闇を乗り越えるための光が、自分たちの星のコミュニティだけではなく、星々に広がっていくこと、みんなで空を見上げているという行為、自分たちの見ている光は遠くの星の人々が放つ光で、遠くの星から見れば自分たちの星もまた光の集合体であるということまで、ばく大な宇宙観でありながら、どこかあたたかみというか、優しさというか、平和なものが感じられて、希望や、広大な連帯感を強調しているように感じました。共通の困難に対してみんなで協力し合うことで安穏が訪れるというのは、やっぱり普遍的な感動をもたらすものだと思うし、世界は今もなお戦争やさまざまな困難を抱えていて、このお話が示している希望や連帯感はせめて物語のうえではこうあって欲しいし、こうだったらいいのにという願い、きっと私だけではなく世界の願いとも矛盾せず、心を寄せられる内容だと感じました。
・テーマの表現について
ひとつの星から別の星へと情報がどのように広まり、またその星でどのように情報が実践され適応されていくのか、その過程や、星によっての伝わり方の違いが、作中に流れる時間とともに丁寧に描かれていて、テーマが具体的かつ明確に表現されていると思いました。またそれが、光に関わる情報や技術であるということからも、情報や技術が広く伝わるという意味だけではなく、光が広がっていく・光が伝わっていくという意味や効果も加わることで、さらに重層的にテーマについて表現されていると思いました。
・主人公と思わしき人物の決意について
全体の印象として、登場人物たちは恐怖や不安を大きく表現することなく、淡々と日常の一部として受け入れて、対処しているように思いました。主人公と思わしき人物さえ、感情の高まりや激しい心の動きが表現されることは少ないです。感情移入や共感という意味では、もっと動機や、葛藤や成長についての描写があったほうが主人公らしい、物語らしいという意見も理解できるのですが、私はこの“感じ”が良いと思いました。私がなにより良いなと思うのは、クライマックスで主人公と思わしき人物が決意をするところです。決意をする、という行為が良い。ささやかなものでもいい、実際にその決意によって何かがめざましく変わるわけではなくても。決意はそれだけで劇的な行為だし、十分に物事を成し遂げている行為だと私は思うからです。主人公と思わしき人物の、思考や感情が抑制されていて控えめな表現がなされているからこそ、クライマックスでより鮮明に伝わる決意の確かさ、力強さがあると思いました。もっと言うと、人が何かを決意するとき、このお話の主人公のように、意外に心は凪いて静かなのではないかな?と思うのです。人が何かを決意する、現実を受け入れて現実に対処するときは、意外に言葉は少なくて、孤独で。平原の静けさのなかにいるのではないかと思うのです。このクライマックスは良い意味で私の思う現実との齟齬がないように感じられました。
山本Q太郎さんより
・第一印象
「どう思った」とか心的な描写はしないで、情景描写を主題にしたように受け取った。内心描写をしないとこうなるのかと面白い実験を見た感じ。
詩的な印象。どこがとは言えないがブラッドベリとか。夜や虫を飲み込む描写などに、リアリズムが適応されておらず、観念的な意味合いが強くなっているから詩っぽいのかと思った。そういう意味で、R・ブローティガンの「西瓜糖の日々」っぽい感じもする。
・良かったとこ
不思議な情景が綺麗で良かった。
冒頭で「多分夜が来てほたるの光がぼんやりと浮かぶ綺麗な情景がメインになるんだろうな」というイメージが予言されて、「それがいつどのように実現するのか、楽しみに読み進める」みたいな読み方に誘導されたようで面白かった。
今までに経験したことのない出来事をいそいそと不安と興味が入り混じった様子でこなしている人々(人かな?)が、ちょっとコミカルな感じがして魅力的だった。
状況は同じだが「太陽が沈む夜」ではなく、「闇が訪れる夜」な感じが出ていて良かった。その違いが出ているのもすごいと思った。
人ではない可能性に気づいくといろんな生き物が想像できて良かった。自分が想像した中ではズートピアのようなムーミン谷のような動物人間的なビジュアルが一番しっくり来た。
星と星が近くて気軽に移動しているのが楽しそう。
・気になったとこ
何かのメタファーかと思ったけど、ピンと来るものは思いつかなかった。
不思議な世界観を味わい作品なので、早めに世界観の方向づけが明示されると、戸惑う時間が減って良いのではないかと思う。あえて伏せて、「どうなってるんだろう」を楽しむ作品もあると思うが、その場合は、そういう謎解きを楽しむ仕掛けが必要になると思う。
生きてる。『酒と野菜と妖精』
キャラクターとエピソード、名称と世界観の噛み合い方のよさについて。おいしいものが出てくる作品は、その食べ物がおいしそうだと感じられるだけで価値があるよね~とも。
ともかくスケールが大きく、さっぱり明るいのが強い魅力となっている作品。
実在する具体的な地名を出すと光景は目に浮かびやすくなるけど、その地名を選んだ理由が作品内にないと違和感の原因になることもある……という話も出ました。
花村渺さんより
・「兵庫県神戸市の異人館街」
詳細な描写がなくても町並みが想像できる。しかしアネモーニという人名や舞台がバーであることから日本的な雰囲気が薄く、「兵庫県神戸市の異人館街」という設定があまり活きていない。現代日本に外国から来ためちゃ長生きの妖精がいる! というギャップがこの作品のポイントだと思うので、もう少し日本ぽさがあるとよいかも(髪や目の色、日本酒を引き合いに出すなど)
→追記:これまでのアネモーニが登場する作品で異人館街や日本ぽさの描写があるのなら、無理に入れなくてもよいかも
・「トンボのような羽根を背負っていた」
羽根→羽または翅? 羽を背負う、という表現が好き
・「彼女は陽気な性格だったので……」
ここでアネモーニが女性だとわかるが、これ以降彼女に対する外見の描写がない。一人称が「おれ」なので一回目に読んだときは途中から男性かな? と思ってしまった。人間である女性客や店長と差別化するためにも、情報量を増やして特別感が出せるともよいかも(くるくる回るときに髪がなびく、羽がきらめくなど)
・「ダイジェストで教えて」
なんか好き。親しい人への雑さみたいなものが感じられる
・「アネモーニはくるくる回りながら……」
楽しそう。せりふの勢いと合わさり、落ち着きのなさというか、じっとしていられない感じがあらわれていてよい
・「店長と常連客の女性は大きくたまげた。」
何に対して驚いたのか? アネモーニが既婚者であることか、同性と結婚していることか(アネモーニの外見が女性なだけで性別がない可能性もあるが)、それともマルガリータという名前に対してか。後者の場合、マルガリータの由来となった人物か、マルガリータ王女を指しているのか? 察せられる一文があるとよいかも(「あなた結婚していたの⁉」等)
・「盛大なのろけ話が始まり……。」
始まっちゃったよ……みたいな呆れのニュアンスが感じられてよい。このあとも続く感じは三点リーダーで充分伝わっているので、「始まった……。」のほうがよいかも
・タイトルの野菜は麦、ぶどう、レモンを指しているのだろうか? 野菜とひとまとめにするには違和感があるような。作品内に「大事な植物」という言葉があるので植物か、すべて酒に繋がるのでいっそなくてもよいかも
ゆりなあと愉快な船さんより
構成の奥深さ:
私たちが日常的に飲食しているものの起源には伝えられた歴史とは異なる妖精の隠れた関わりが秘められている、と展開していくところが面白いと思いました。さらに、語り手である妖精自身はそのことにわりと無自覚で、訊かれたから思い出として語っているだけなのに、聞き手である常連客や店主側は驚いている、期せずして歴史の真実を知ってしまったという両者の反応の違い、対比が設定の面白さをさらに際立たせていると感じました。
エピソードトークを成立させるということ:
単純化すると、小説という形式をとったエピソードトークだし、エピソードトークとして成立しているということだと思います。エピソードを語る者(=アネモーニ)がいるだけじゃなくて、ユーモアのあるリアクションを返したり、歴史的な観点から質問を入れたりする者たち(=常連客と店主)がいる。彼らはアネモーニより控えめで目立たない、とはいえ完全なる“群衆(モブ)”というほど個性がないわけではなく、アネモーネのトークに的確に応えている。だから、この小説の核にあるアネモーネというキャラクターの個性の強さ、語られる強いエピソードがさらに強くなっているのだと思いました。
アネモーニというキャラクターの魅力と特異性:
アネモーニのキャラクター像がとてもユニークで、四千歳の妖精が日本の社会に馴染んで生活しているというのが興味を惹きます。その後に語られる長い歴史やエピソードの数々も面白いです。「海賊も政治家も、スペインもマヤもアステカも、うまいものでアミーゴ!」などの台詞や軽快な口調から伝わる明るさ・人外さ、「トンボのような羽根を持つ」「いつも通りルンルンと鼻歌」「くるくる回りながらシェイク」というビジュアルやアクションの表現など、1000字程度という文字数のなかであらゆる方法で最大限わかりやすく、ストレートにキャラクターの特異性や魅力を伝えていると思いました。
言葉の意味の持つ力を借りるということ:
具体的には「兵庫県神戸市の異人館町」「テキーラ専門のバー」「(テキーラ専門のバーの)常連客の女性」「(テキーラ専門のバーの)店主」です。わかりやすい。具体的だし、絵が見える。情景や人物を詳細に描写しなくても、言葉の並びだけで伝わる強さがある。さらに、展開される物語と言葉の意味が伝える絵とのあいだに齟齬がないと思いました。(たとえば「ダイジェストで教えて」という常連客の女性の言い回しなど。)限られた枠組みのなかで必要な情報を伝えるにはどうしたらいいかということは物語るうえでどうしても考えざるを得ないと思うのですが、言葉の意味の持つ力を借りるはおおいに有効だと思いました。
まっとうにまっすぐにテーマを捉えている:
テーマの芯に近いところを噛んでいるのではないかなぁと。多くの人がイメージする「伝播」は、この小説の扱っている内容のとおり“一方の文化や技術が他方へ伝わる”ということだと思うので。
美味しそう:
私がなにより良いと思ったのは、美味しそう、と感じたことです。テキストで描かれた飲食物、飲食のシーンから「飲んでみたいなぁ」「外食したいなぁ」「行ってみたいなぁ」と思うこと。美味しさを感じ取れること。それがなにより素敵なことだと思いました。たぶん、作中に登場するマルゲリータを、私が実際に飲んでみたら、小説のなかで感じるほど美味しいとは思わないと思うのです。なぜかというと私はお酒が苦手なので。ほとんど飲めないといってもいいくらい。でも、このお話のなかでは生き生きと表現されていて、美味しそうに感じられる。「シェイクの終わったテキーラをなみなみと注ぎ、縁に塩を塗り、最後にレモンを刺した。」の一文からシンプルに鮮烈に伝わる美味しさ。今までいろいろと意見を述べましたが、個人的に、飲食物が登場するテキストは、他ならぬ私自身が直感的に「美味しそうだなぁ」と感じられるものでさえあれば、それさえあれば他はどうでもいいかなぁと思っています。それがすべてで、それ以上の良さは私にとってないです。小説の中に登場する飲食物は、実際に飲み食いできるわけではないし、通常、絵や写真でも見られません。でも、言葉で語られているだけの飲食物が、現実の美味しさを超えられるようなものであれば、それはやっぱり言葉の持つ力だし、とても小説的な事象だと思うし、テキストを読むという行為の面白さだと思うのです。
山本Q太郎さんより
・第一印象
アネモーニにまた会えて嬉しかった。元気そうでよかったです。
今後アネモーニの過去のエピソードがたくさんありそうで楽しみ。
常連のざっくりした感じは面白かった。「ダイジェストで」って乱暴な感じもするけど4千年となるとダイジェストしたくなる。
・良かったとこ
作品の世界が、時間的にも地理的にも広いところがよかった。(他の作品も読んでいるからかも)
文章はひっかかるところはなかった。過去作よりもシンプルになった印象で読みやくなった。
主客の混乱はなかった。
文章の素朴な感じがキャラクターと合っているので、一つの正解だと思った。
・気になったところ
ディティールで突っ込んだところがあると、大きな世界観との対比でなってアクセントができるかと思った。「カクテルのレシピが細かく描写される」など。
タイトルの野菜が気になる。
ゆりあなと愉快な船『伝播』
もどかしい空気感! いままでの招文堂ワークショップにはあまり持ち込まれなかった青春モノでした。
神視点がメインとなる作品って今は少し珍しく、新鮮であるな~とも。その中で一人称を出すタイミングが上手いという話もあり。
「テーマがある作品ってどんな手順で作る?」という話題も。まずはテーマの意味を辞書で引く人が多数!
花村渺さんより
・神の視点で執筆されている。あまり出会ったことがないので新鮮に感じた。カメラを通して見ている感じ。徹と咲穂のまとう雰囲気や、ふたりの心理が効果的にあらわされている
・「放課後の……変わってしまったように思える」
描写が繊細で美しい。冒頭から雰囲気が完成されていて、これを最後まで続けられるのがすごい
・「窓際の席に佇む」→「窓際に佇む」? 違和感があるようなないような
・「徹は興奮と緊張を……意を決して口を開いた」
呼び出されたのだから自分は嫌われていないとわかっている徹と、どう思われているかわからない咲穂との差があらわれていてよい
・「毎日のように一緒に遊んでたのに」
会話文でも「感じていて」「毎日のように」とやや文語的なので、「遊んでいたのに」のほうがよいかも
・「咲穂の姿を初めて見たとき…」
三点リーダーはふたつつなげる(……)
・「昔のままのふたりに戻りたい」
違和感。「まま」と「戻りたい」は同時に成立しないかも。「昔のふたりに戻りたい」「昔のままでいたい」等
・「親しみ以上の他意はなかった」
他意=ほかの考え、特に隠している考え。「親しみ以上」だと親しみも他意に含まれてしまう。「意味」「気持ち」等が適切かも
・「咲穂を見つめ返す……できなくなっていた」
好き。関係の変化を受け入れつつある徹に対し、自分たちのこれまでと違うあり方に不安と怯えがある感じがよい。特に「私はこの先にあるものを知りたくない」が好き。地の文での一人称の出し方が上手い
・「咲穂を見つめ返す……咲穂は思う」
短い中に咲穂が三回出るので、最後は省いてもよいかも
・「もう戻れない……ことならできる」
やや気取りすぎているというか、大袈裟というか、押しつけがましいような気がする。咲穂が「戻りたい」と願望を言っているので、徹も願望で返すほうがよいかも。「戻りたくない」等。次の段落の「戸惑う……握り返した」以降でふたりの思いが通じ合うようすを読みとることができるので、ぼかした言い回しのほうが雰囲気が活きそう
・「徹は声を震わしながら……徹は必死に耐えた」
描写がすごい。静寂の中で自分たちの音だけが大きくなっていく緊張と高揚が伝わる
・「一気に溢れ出しそうになるのを……俺は」
これまで徹と咲穂を交互に描写していたために、咲穂が置き去りにされている感じがある。咲穂の動作が一文だけでもあるとよいかも
・「これから始めるんだ、そう信じながら」
「始める」という意思と「信じる」という行為は同時に成立しないかも。「誓う」「決意する」等? 「信じる」を使うなら「始まる」のほうがよいけど、徹の主体性は失われる
・「長く伸びたふたりの……やがて…」
三点リーダーで終わるのがもったいない。ここまで空間と雰囲気の描写をものすごくていねいに重ねてきているので、「重なり合う」で切り、情景描写で締めたほうがきれいかもしれない
山本Q太郎さんより
・第一印象
続きが気になる!
思春期の空気感が伝わって来た。すごい。
文章が世界観があって読みやすくてすごい。
少女漫画っぽいあの世界観が、見事に文章化されていると思った。
・良かったとこ
2人の繊細なもどかしい感じ、戸惑い、よううな心の不安定な描写がよかった。
ロマンチックな少女漫画的な感じが上手いと思った。
文章が世界観に合っていて美しいと思った。しかも上手いので、『美女と野獣』や『ノートルダム〜』のように、野蛮だったり醜かったりするものがモチーフとしてあっても対比になって面白いかと思った。
おっさんとしては、こんな素敵な経験はないので共感してたとしても、共感したと言いずらい感じがちょっとあった。照れかな?
・気になったところ
地の文はロマンチックだけど、それに比べてセリフが説明っぽいのは勿体無い感じがした。「もう釣りに誘ってくれない?」(ロマンチックではないですね)というセリフのリアクション次第で、照れたり強がったりとキャラクターの内面を創造できるようなやり取りが作れそうだなと思いました。
おわりに
意見交換を経ての雑談。
「テーマがある場合の、作品の作り方」という話題で最後まで盛り上がり、時間が足りないまま、名残惜しくもお時間となりました。
次回
次の文芸意見交換会は9月~10月頃を予定。
詳細は招文堂のSNS、ブログ等でご案内をいたします。お楽しみに!
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