2024年7月31日の夕刻、参加者のみなさまがDiscordサーバーのボイスチャットに集まり、お喋り開始。
招文堂がタイムキープをし、主催の山本Q太郎さんが司会進行を担いつつ、会が進んでゆきます――
※以下、敬称略
【招文堂】
では山本さん、お願いします。
【山本】
よろしくお願いします。
今回は1作品ごとに、皆で順に感想を言っていく感じにしようかなと。どういうふうに話していいのかわからない方もおられるかと思うので、最初は山本から感想を言っていきますね。
ではまず〈生きてる〉さんの『瑠璃色の花』から。
『瑠璃色の花』
・文章が読みにくくないか
・誰のセリフか分かるか(誰がどのセリフを言ったか、混乱はないか)
・最後まで読んでもらえそうか
- 山本Q太郎さんの感想
【山本】
面白かったです。が、何がどう面白いのか説明できない。そこがまた面白かった。お話というよりは、エッセイみたいな、面白い体験記を読んでるような感じが面白かったのかなと。
文章が読みにくくないかについては、そこまで読みにくい感じはしない。(地の文が)喋り言葉なので、その口語調のニュアンスみたいなものに慣れるまではちょっと時間がかかったんですけど、慣れるとそんなに読みづらさはなかったかな。
誰のセリフか分かるかについては、そんなに混乱したところはなかったです。途中で主観が変わるのはちょっとびっくりしましたけど、変わったことはわかるように書いてあるし、(文芸の表現として)こういう手法はあると思うので、(理解にあたり)そんなに問題はなかった。
最後まで読んでもらえそうかについては、この話はどういう話で、どんな結論を目指して進んでいるのかがあまり示唆されないというか、状況描写が続くので、読んでいて若干ストレスはあると思います。
でも、そのストレスに耐えられなくなる前に語り手が変わったり、新しい出来事が始まったりするので、投げ出すことはなく面白く読めました。
何回か読み通してみて思ったのは、「(小説などを)書いている人」の生っぽい気持ちが表現されているところが面白かったのかなと。自分(山本)自身も文学フリマとか、イベント(個人が製作した小説本等の即売会)は参加経験があるので、そういう経験が理解に重なって、イベント会場で行われてる楽しいこととか、戸惑いとかが分かる。
『瑠璃色の花』はコンセプチュアルな小説ではないと思うんですよ。たとえば「作ったものが売れなくてがっかりした話」だとか……そういう、お話として狙いすました感じではない。体験談っぽい感じなんですが、その中で登場人物の気持ちみたいなものが丁寧に描かれているので、そこが楽しみどころだったのかなと。
お話の展開として引き込まれるというよりは、登場する2人がお互いを思い合っている空気だとか、思い合っているからこそ戸惑っている、遠慮している感じだとか。悪意のない、相互理解をしようとし合っている人たちの、ポジティブな価値観、幸福な世界観のお話で、そこもよかったなと思いました。
お話の筋が2つに分かれてますよね。イベント編と、小説を起点とした親との関係性編という、ちょっと別々な話。そこは少しバランスが悪いんですけど、だからこそ面白いんじゃないかなっていう気もしました。
これまで生きてるさんの作品をいくつか読ませて頂いて思ったのは、生きてるさんの作品って、「登場人物が昔あった大きな何かについて語る」という状況やシーンが多くて、そういう作品形式自体が、生きてるさんの癖であり、同時に得意技でもあるのかなと。
こういう見せ方で、背景に大きな世界観が突然現れてくる感じとかは、やっぱりちょっと面白いなっていう風に思いました。
- 円山すばるさんの感想
【円山】
まず一言で感想を申し上げますと「イベントがなければ出会うことがない、創作者さん同士いい関係ってあるな」と。興味深く拝読しました。
文章が読みにくくないかにかんしては、すごく読みやすいと感じました。誰のセリフか分かるかという点も、私は無理なく理解できました。
私はこういうお話、好きなので、続きもあったら読みたいなって思いました。
特に印象に残ったシーンですと、移動花屋さん・しなちくの――すごくいい名前だなって思って読んでました――あの、しなちくの店主さんが過去を回想するシーンで、お母さんのね、葬儀のことを思い出してるシーンがすごく印象に残って。自分の家族の葬儀のことを思い出すって、そういうことあるよな……と、すごく印象に残りました。
創作をしてる時って、現実に重いことがあったとしても、その現実のつらさを押しててもイベントに出ることで前に進みたいと思う……そういう時、やっぱりあるので、登場人物の皆さんを応援したい気持ちになりました。
そんなふうに共感もしましたし、気になるワードとかフックの強いテキストがいっぱい出てきて。私は恥ずかしながらお酒に弱いのでテキーラとかは飲んだことないんですけど、「かわいいアイドルにゃんこマルガリータ」ってどんな絵なのかな? って気になったり(笑)
なごんだり、センチメンタルな気持ちになったりしながら……興味深くも考えさせられる、いいお話だなと思いながら、読ませていただきました。
- 平坂Nさんの感想
【平坂】
生きてるさんの気にされているポイントですね、(文章が読みにくくないかについては)読みづらさはそんなになくて、さらっと読めるかなと思いました。誰のセリフか分かるかについては、掛け合いも含めて違和感ないと思います。最後まで読んでもらえるかについても、私はこの作品好きだなと思いながら、読み切ることができました。
感想としては、イベント参加のリアルさが出てるなと。一期一会な描写を読んで、自分(平坂)もリアルイベントに出てみたいと思ったりしました。
話の前後で語り部が変わるけれど、読みづらいわけではなくて、むしろリズム感を作っているような感じがあります。ソ連とかテキーラとかのワードが出てきて「あ、生きてるさんの作品だな~」と(笑)
登場人物2人とも、明るい作風の中に闇を抱えているような……コンプレックスを抱えつつも、やや健康的な2人が出会うというのが小気味よい。
片や髪を剃り上げて、階段に向けて「なんでエレベーターがないんだよ」って文句言えるような人。そのお相手が、バイトでおじさんに怒られて接客業をやめるような気弱な人。対照的な登場人物ががとても愛らしいと思いました。
表現で好きだなと思ったものとしては、冒頭の「ああ疲れた…… ! 登ったぞ! エレベーターのない不親切な地下鉄め。」とか……他の箇所との落差というか、憎めない口調が。翻訳小説を読んでいるような感覚もあったり。
他にも「そっと造花に触ってみた。不意に壊れてしまいそうな肌触りだった。」という表現とか、イベントブースに閑古鳥が鳴いていた小説家さんの「もう売れなくたっていいんだ」っていう開き直りとか。イベントってそういう場だよね、と思ったりしながら読みました。
「チョウトンボの花を、 壊さないように大事に懐に入れて帰った。」というくだりも、あの人は一つの宝物を得たんだろうなということがよくわかるなと思ったし。「毛色が違うというのか、ヒツジの中にヤギがいるような感じがした。」という例えもよかったです。
あとは、ちょっとだけ疑問を感じたところもあって。
小説家さんのことを、最初は女性だと思って読んでいたんですけど、外見の描写で「あれ、男性だったのかな」と混乱したんですよね。私はそこで若干躓いてしまったかなと思います。
でも、全体を通してすごく面白かったです。 ラスト間際の「私にとって、あの花を作ることが、精神的な親殺しだったのかもしれない。」という一文、ここも象徴的でしたね。
- ととりさんの感想
【ととり】
生きてるさんの気になっておられるポイントから話すと、私的にはですね、文章は読みにくくはないんですけど、上手かと言われると……「まだまだいける気がする」っていう感じでした。(何が書かれているか)理解はできるんだけど、ベストかと言われるとそうじゃない感じが。 特に最初の掴みである冒頭の一文やイベントの風景描写は、自分だったらこの順番では書かないなっていう感じがして。まだよくする余地はあるんじゃないかな、という印象です。生きてるさんには「私ならこう書くかも」という例文のサンプルをお渡ししたんですけど、僭越ながら……
【生きてる】
いえいえ! とても参考になりました。
【ととり】
あ、よかったです。あれもあくまで一例なので、こういう書き方もあるよいうくらいに受け取ってもらえればと思います。
それで、ですね。
誰のセリフか分かるか、というポイントについては、一応はわかりました。でも、もう少し「今だれが喋っているか」という描写はあったほうがいいかもなという感じがしました。セリフだけが続く箇所もあるので、そこは(話者についての)描写を追加したほうが親切かなと。
最後まで読んでもらえそうかという点にかんしては、最後まで読めました。もし(生きてるさんが)不安を感じてるんだったら、読者が離れるポイントとしては、イベント会場のシーンだと思うんですよ。そこまではたどり着くけど、そっから先読んでもらえるかどうかがキモだと思うので。
たとえばイベント会場のシーンをコンパクトにまとめるとか、面白さを追加したりとか……そういう工夫があれば、最後まで(読者の興味を)持っていけるんじゃないかなーって思いました。今でもじゅうぶん読めるんですけどね。
個人的に一番気になったポイントは、花屋さんの回想。物語のモチーフとなった「百万本のバラ」という歌について書かれていたあたりです。この周辺は説明が不足していて、おそらく初見では何が言いたいのか伝わりきらないなって感じがします。このあたりを生きてるさんなりに噛み砕いて、絡まっている糸みたいなものをほぐして、こう、みっちり書いてあげたら、より深いメッセージ性のある作品になると思うんですよね。
それから、タイトルの「瑠璃色」っていう言葉をどっかに入れた方が良かったかも。本文内に「青」とは書いてあるんですけど、瑠璃色が青の一種であると分からない人もいるかもしれないので。スカビオサの花の描写のあたりで、瑠璃色=スカビオサを繋げてあげる言葉があるといいかもしれませんね。
【生きてる】
はい。みなさん、ありがとうございます。
【山本】
ありがとうございます。えっと、では……もしよろしければ、やまおり(招文堂)さん、ちょっとした感想があれば。
- 招文堂の感想
【招文堂】
(生きてるさんが)疑問に思ってらっしゃったところに対する簡単な返答、みたいな感じになるんですけど……
文章が読みにくくないかについて、私は読みにくくはないと感じました。しいて言うなら「、」「。」などの約物が行の一番上に来ちゃってる箇所がいくつかあって、WEB掲載ならこのままで問題ないと思うんですけど、もし紙の本にする時は、こういう約物等は前の行にぶら下げてあげた方が読みやすいかなという感じはしました。
誰のセリフが分かるかについては、通して読んで「まったく分からない」場所はなかったんですけど、比較的、話者を指示する描写は少なめだなとは思いました。特にイベント会場でしなちくさんと小説を書く人がお喋りする場所はもうちょっと(描写があっても)……いやでも、今ギリギリわかるので、これは作風にもよりますよね。ただ、もう少し(話者について)明示してあげても、全然しつこくはないと思います。
最後まで読んでもらえそうかについては、これはですね、私は結構1行目から厳しいかも~と思っていて……。
「一般人が本や絵を売ることのできるめったにないイベント」って、我々は小説を書いてるからなんとなく「同人誌即売会とか文学フリマみたいなものかな」ってわかるんですけど、世の中の多くの人は小説を書いたりしないんで、何のことだかパッとわかんない気がするんですよね。そういう意味では(イベント会場シーンは)全体的にこう、即売会に出店する人向けの描写だなと思っていて。
「めったにないイベント」の前に、たとえば「東京流通センターの駅で降りると周りにはこういう風景があって、今日の天気はこうで、この駅で降りた 全員が同じ方向に向かっていく一種異様な光景があって~」とか、即売会に詳しくない人にも、今どういう場所に主人公が立っているのか想像できる前振り、状況説明パートみたいなものを、主人公の心情の描写とかを絡めながら、さらっと入れてあげるといいのかもしれません。
逆に冒頭を過ぎればもう、俄然面白く読めるんですよね。だからこそ冒頭がもったいない感じになっちゃってる。特定の趣味に詳しくない人へのちょっとした目配せ、みたいなものがひとつ入るだけで大きく変わると思います。
【山本】
これで一通りの感想が出そろいましたね。
生きてるさん、ここまでの感想を受けて、改めて聞きたいこととかありますか?
【生きてる】
ええと、平坂さんの仰っていた「登場人物の性別がわからない」という箇所についてなんですけど……
Q「登場人物の性別って明らかにしたほうがよい?」
【生きてる】
実はこれ、性別をあえて書いてないんです。自分自身がモデルだから書けなかったというのもあるんですけど……やっぱり性別には言及しないと読みづらいですかね?
【平坂】
いえ、私が引っかかったのは「想像していた性別と、服装描写にギャップがあった」からなんです。もし服装描写がなければ「ひょっとして女性かな?」と思うことはあっても、登場人物の性別が気になることはなかったと思います。
【生きてる】
ああ、なるほど。……(即売会に出店していると)(性別が)どっちだかわからない人と出会うことがあるじゃないですか。そういうイベント会場の雰囲気も出したいなと思っていたんですけど、イベントを知らない人が読むと引っかかるかなあ。
【全員】
うーん……?
【平坂】
もし抵抗がないなら、性別はいっそ明言してしまったほうが、変な引っかかりは生まれないかもしれない?
【ととり】
「声を聞いて、女性だとわかってはっとした」みたいな一文を入れるとか。
【招文堂】
服装描写もしつつ、しかし登場人物たちの性別はぼかしたいなら、例えば「声を聞いて、女性かなと思った」と書きつつ話の流れとして相手には確かめないだとか、「声は男性のようにも女性のようにも聞こえた」とするとか。
性別に触れるにしても、語り手の主観に留めてあげると、(作者の)あえて性別をぼかしておきたいという意図を示しつつ、ちょっと読みやすくなったりするのかな? と、今皆さんの話を聞いてて思いました。
【生きてる】
なるほど。ありがとうございます!
『片目の面』
【山本】
それでは、次……〈 ととりさん〉の『片目の面』にいきましょうか。
【ととり】
よろしくお願いします!
・自分の文章に関して、自信過剰人間なので、ダメ出しして欲しいです。
- 山本Q太郎さんの感想
【山本】
最初の印象なんですが、突然「剣客もの」を書く作家さんが(招文堂のワークショップに)現れて、若干びっくりしました(笑)
【ととり】
剣客ものって、どういうジャンルですかね?
【山本】
剣の達人がいて、その人が剣の達人であることを中心にお話が進んでいく……っていう。
【ととり】
あ、そうですね。そういう流れにはなっていると思います。
【山本】
すごく面白く読めました。「たまたま(剣客ものを)やってみた」でここまで書けない気がして、(ととりさんは)普段から侍や剣客が出てくる作品は書き慣れているのかなと思ったんです。
【ととり】
そういうの、好きですね。
【山本】
こういう作品を書いているのは、柴田錬三郎とか、そういう作家さんたちの世界観(に影響されて)なんですか?
【ととり】
どちらかというと、漫画に影響されてて。白土三平とか横山光輝とか、そっちの世界観から来てるかなという。
【山本】
なるほど……話を戻すと、(時代ものの表現が)上手いなというか、書き慣れてるなというか、ちゃんとしてるなと思いました。
アクションシーンがあるんですけど、ここで「何が行われているかわかる」っていうのも、すごいんじゃないかなと。お話の展開としても、ニヒルな剣士と、娘さんと、意に沿わない仕事みたいな世界観――雰囲気やニュアンスが出ててよかったなと。
あと、そこまで(本文の)文字数が大量なわけではないと思うんですけど、その中で展開がいくつかあって、場面も変わってやることも変わって……それらがきちんとまとまっているのも、すごいなと感じました。無駄な感じもせず、必要なことは必要なだけちゃんと書かれてる。
(地の文の視点が)一人称と三人称が切り替わっていくところについては、ありかなしか迷ったんですけど、(今回は)ありだなと思いました。違和感を感じる人はいるかなとは思いつつ、これはこれで面白かったなと。
主人公が片目を失ってもさらに戦う、という流れも、ジャンルものとしての魅力があって、よかったですね。
面白かったし、文章も読みやすくできているので、改善点のようなものはあまり思い浮かばなかったのですが……主人公の「表情がない面」という設定の“強味”がどこかにあるといいのかなって気がしましたね。
作中で主人公が笑ったり、なんらかの表情を浮かべることがありますけど……これって、凄惨な場面になると笑うって言う怖さの演出だったんですよね?
【ととり】
はい、そんなかんじです。
【山本】
そうなると……たとえば京極夏彦の『嗤う伊右衛門』みたいに、その笑う場所をもっと意図して絞るとより印象的になるのかなって気はしました。
ジャンルものの雰囲気が出てるので、もうちょっとケレン味というか、色気みたいなものがあるといいのかなって。主人公の容姿である「能面のような表情の、片目の男」を強調することもそうですし、あとは、必殺技とか……? でも技の設定とかが必要なので、必殺技は難しいかもですね。
あと、これは感想ですが、主人公のニヒルな感じ、世の中を良きものとして受け入れていない感じとか、ハードボイルドな雰囲気が、市川雷蔵の(演じる)眠狂四郎っぽくて……そのあたりから、(本作を読んでいて)柴田錬三郎を連想したのかもしれません。
- 生きてるさんの感想
【生きてる】
殺陣のシーンがまずいいなと思って。(最近は)時代物を、特にこういう血の匂いがする、その中で女の人が襲われたりするような作品を書く人ってなかなか見つけにくい気がしているので、ととりさんの世界観を大事にしてほしいなあと思いました。
登場人物がみんな魅力的ですよね。面(主人公)主観の文章のハードボイルドな表現も良かったし、あと敵になる 佐平次がすごく好きで。最後にどんでん返しみたいな感じで出てくる敵キャラなんで、もっと高笑いとかして欲しいなと思ったり(笑)
でもそうすると桐乃の方がかすんでしまいそうなので、桐乃の手練れの家で育った強気さとか復讐心とか……そういうものが面と喧嘩するうち恋に変わっていく様子とか、そういう描写があったら桐乃も(キャラが)立ってくるかなと。男の人だけじゃなくて桐乃の変化も見たいなと思いながら読んでました。
(読みながら)手塚治虫とかの、白黒の漫画の表現とかを思い出して……映像として伝わってくる、いい文章だなと思います。
もったいないなと思ったのが、前半が「了」で終わっちゃうこと。私は途中まで、「了」のあとに続きがあると気づかず……「了」は本当の最後に持ってきてくれたほうがいいかなと思いました。
【ととり】
了は……(前半を)書き終わって、何年かしてから続きを書いたからですね。データの貼り付けミスです。すみません。
- 平坂Nさんの感想
【平坂】
殺陣のシーン、緊迫感がありますよね。文体もかなり殺気立ってて、とてもハラハラしながら読ませてもらいました。
殺陣といえば、お父さんを斬ってしまった1回目、後をつけてきた同業者を斬る 2回目、桜の時期に追ってきた弟子たちを返り討ちにする3回目――3パターンの殺陣のシーンがあるじゃないですか。
この殺陣の視点が、1回目は一人称、2回目は三人称。3回目でそれ(一人称と三人称)が交ざっていて、段階を踏んで一人称から神視点になっている感じがしたんです。
この視点の推移は……個人的には、どっちかに統一してほしいなと思ったところでした。
それからラスト、(面が)死んだか気絶かわかんないんですけど 面と桐乃が幸せでありますようにと強く思いました。
【招文堂】
わかる……
【平坂】
描写で「ん?」と思ったのは、「相手の左のわき腹から逆袈裟切りに右肩へと駆け抜ける活路。」から、「俺が叩きつけた剣はそのまま相手の肋骨をへし折り、内臓をかき回して右肩へ抜けた。」へ続く部分です。(剣で切るなら)「内臓をかき回して」ではなく、例えば「 切り裂きながら」のほうが個人的には、(自然かな?)と。
あとは剣客ものに桜と月っていいですよね って思ったりとか……。
それから一人称の「俺がこの道を選んでいるんじゃない。この世がそうなっているのだ。」という描写がすごくいいですね。他にも「散るにはあまりにもおぜん立てが整い過ぎている。野良犬のような人生の俺が死ぬ季節としてこの春は美しすぎるだろう。」とか「ああ、俺の死神はなんと愛らしい。」とか、とても好きです。
もうひとつ気になったのは、面と佐平次さんの、実際に戦うシーンがカットされていること。やり合う描写がないじゃないですか、いきなり戦いが終わったので、ちょっと急かなと。欲をいえば、もう少し描写がほしかったなっていうのがあります。
最後に、ラスト4行。ここに書かれている桐乃の父の教えは、この場所でいいのだろうか……と。もう少し前にもってくるか、佐平次がどうして桐乃の父を暗殺したのか語る場面なんかで、一緒に説明しちゃうといいのかなと思いました。
- 円山すばるさんの感想
【円山】
やっぱり凄まじい切り合いのシーン……あの描写がすごく迫力があって、かっこいいなって思いながら読んでいました。迫力とおどろおどろしさが同居していて、すごかったですね。アニメとかで見たいような動きを小説で再現してらっしゃる感じがして、ととりさんワールドをもっと覗いてみたいなと思ったりしました。
ととりさんの中に多分、この『片目の面』のストーリーがめっちゃ広がってらっしゃって……これは私の勝手な想像なんですけど、今回はそのワン シーンを切り出して書いておられるのかな、と、そういう印象を受けました。
ですから、ととりさんの描写力をいかして、背景をもっと細かく描いたり、もっと文字数を割いて(エピソードを)たくさん盛りこんだりすると、もっともっと読み応えのある感じなるかもと思いました。
- 招文堂の感想
【招文堂】
なんどか話題になった視点の推移についてですが、私はたまに「あれ?」と思うところもありながら、おおよそ問題なく読み通すことができました。
視点の推移よりも、むしろ、1つの文の中で細かく視点が変わっていくところのほうが違和感が……演出上わざとやっているのか、単純なミスなのかが、ちょっと分かりにくい感じがしました。
たとえば「娘の瞳の瞳孔が少し広がる。喜びを隠しきれないように娘の瞳が輝く。だが彼女はつとめて冷静に『そうね。ちょっと疲れたし、休んでもいいわ』といった。」という一文。
「彼女はつとめて冷静に~といった」は、(桐乃を彼女と称しているゆえに)桐乃以外の視点であるにも関わらず、彼女が「つとめて」そういったかどうかは桐乃と神にしかわからない情報です。
しかもその直前の「娘の瞳が~瞳が輝く」までは面の視点らしき雰囲気なので、余計に混乱してしまって……この描写は誰視点なんだろうって、前に戻って読みなおす場所がちょこちょこありました。
「人称の推移」をふくめた描写や手法って、その人の作風にすごく根深く結びついている事柄なので、外から口を出すのは憚られるところではあるんですけど……。
でももし、できるだけ多くの人間にとって違和感がないようにすることを目標とするのであれば、視点を変えていくことに演出的な意図を持たせないと、現状は技術不足と取られかねないかなと思いました。
ですが同時に、それでもガーッと最後まで読めちゃう力があるんですよね。他の方も仰っているように、とにかくアクション描写がうまい。こういうジャンルを書き慣れてる感じがして、文章は淡白なのに、どこからか匂い立つ空気感、世界観みたいなものが濃くあって。それから、弟子が裏切るというクラシックなお約束も読んでて嬉しい。私も佐平次めっちゃ好きでした。
【山本】
ととりさん、さらに聞きたいことがあったら……
【ととり】
はい。聞きたい事っていうか解釈なんですけど……平坂さんが言ってた「相手の左のわき腹から逆袈裟切りに右肩へと駆け抜ける活路。」から、「俺が叩きつけた剣はそのまま相手の肋骨をへし折り、内臓をかき回して右肩へ抜けた。」のところ。あれはもう剣が鈍っていて切れない、だから骨をへし折ったり内蔵をかき回してしまう、という表現なんです。
【平坂】
ああ、なるほど!
【ととり】
対戦相手の父上はキレのある剣捌きを見せるんだけど、面の方はもうそんな余裕もなく、棍棒のように刀を使うしかないっていう描写なんです。これ直すと(かえって)よくないかなと思うのですが……どうでしょう?
【山本】
うーん……その場面の前に鈍るまで剣を使ってる描写がなかったので、気づかないかもしれないですね。
【招文堂】
日本刀はいっぱい使うと血脂でどんどん切れなくなっちゃうよっていうことが、結構な専門知識だなと思うので、内臓がかき回される前に「すでに刃はなんたらかんたらで~、鈍らになっているが~」など一言入れてあげると親切かもと思いました。(そういう情報は)ディティールの補完にもなりますしね。
【平坂】
何人も切ってきた、棍棒のようなってしまった、その剣をそのまま……みたいな、かゆいところに手が届く一文があるとイメージ違ってくる気がしますよね。
【ととり】
なるほど……ありがとうございます!
【全員】
ありがとうございます!
【山本】
さて。1時間くらい経ちましたから、いったん休憩を入れましょうか。
【招文堂】
では10分後に再開ということで。
⇒休憩へ
『夏の日のファンタム』
・最後まで読みたいと思えましたか
・一言で表すとしたら、どんなことを感じましたか 例:青春だった! 暑そう!等
・小説内の未来の情景をイメージできましたか
- 平坂Nさんの感想
【平坂】
3つあった質問ですが、1番目(Q.最後まで読みたいと思えましたか?)。サクサク読むことができましたでしょうか。語り口が一人称で軽いので、ほんとにウエハースみたいな感じでサクサクって感じで。
2の「一言でいうならどんな作品でしたか」という問いは、「ファンタムの瓶の水滴が夏の光を反射して眩しいほどの青春が」っていう言葉にしましたね。甘酸っぱ。青春というかもう、もどかしくて甘酸っぺ。ってなって。
3番(Q.小説内の未来の情景をイメージできましたか? )は、これは私の勝手妄想なんですが、新海誠の新作にありそうと思って。なんか、男の子と女の子、SF、あのなんだろう風景描写が超綺麗みたいな。三拍子揃っちゃって、うわ新海誠やんけ、みたいな。
【円山】
ありがとうございます。光栄です。
【平坂】
それでここ好きっていう場面がいくつかあったんですけど。じじいたち。これも小気味よいと思った。おじいちゃんたちが、軽口叩いてる印象がとても……老人が元気な作品はいい説を勝手に持っていて。あと後ろにケイちゃんを乗せながら、あ、ミニホバーバイク運転している時はもう、ゆずの「ゆっくり〜ゆっくり〜降ってくー」が浮かんで。
【円山】
ああいいですね〜。流してぇ〜。
【平坂】
あとあのケイちゃんの「大人になっても、私のこと忘れないでいてくれる?」っていうところできゅんってなって。
【円山】
よかった
【平坂】
最後は釜爺の「愛じゃよ、愛」
【円山】
千と千尋になった すごい
【平坂】
なんかめちゃくちゃな感想なんですけど、とにかく、一人称でリズムがよく読めて、登場人物に好感しか抱かなかったですね。ファンタムっていうのが謎の飲み物ですけど、瓶が売ってるところが限られてるってところが、ロマンのあるところだって直感でわかった。
【円山】
よかった。ありがとうございます。
- ととりさんの感想
【ととり】
えーと、「気になるポイント」から行きます。「最後まで読みたいと思えましたか?」これはあの、すごい、文章がお上手で、読みやすくって、読めました。読めましたが読みたいと思ったかって言うとちょっとこう、何て言うかな……物語の仕掛けが、もうちょっと前半の方に強めにあるといいかなっていう印象はありました。
ちょこちょこっと仕掛けはあって、例えば、多分この作品全体のベースにある部分で「人間は誰かと一緒にいたい生き物で、愛という概念をずっと大事にしてるんだ」っていう、その多分ベースのテーマを、登場人物たちの関係性で表現してる作品だと思うんですけど……それらの話が伝わってくるのが割と(物語の)最後の方なんです。途中のですね、職場にいた伝説の植物マスターとか、そういうちょっとした言葉が後々伏線にはなっているんだけど、そんなに印象に残らないというところが勿体無いなという気がして。ちょっとこう、前半に何か、謎っていうか、「この植物マスターって誰なの?」って思わせるような描写があるといいかなー。
あとなんか、お店の「寡黙で渋い顔のマスター」と「植物マスター」は、(マスター)という単語がちょっと被ってるから――結局同じ人っていうことが後からわかるんですけど――この「マスター」は言い回しをそれぞれ変えてみた方が仕掛けがうまくはまるような気がします。
でもこの作品のテーマっていうか、「人間は愛という概念を、テクノロジーが発達しても大事にしてる」っていうのは大好き。大好き。なんかこう、すごい読んでて楽しかったし、心が温かくなる感じの描写もあって、いい作品だなあと思って読ませていただきました。
(この作品を)一言で表すとしたら、私なんだっけ、ノスタルジーって書いたんだったか。先に提出した感想文みたいなのにはノスタルジーって書いた気がするけど……最初SFなのにすごい田舎の風景とか、懐かしい感じとかがあって、すごく不思議な世界というか。未来の話なんだけど懐かしいっていう、この不思議な感じがいいなと思って。
なんかこう、どっかで懐かしいって感じるんだけど、新鮮さもあるみたいな。なかなか思いついてもうまく文章に落とし込むのは難しい感じを出してて、素晴らしいなと思いました。
最後のポイントの「小説内の未来の情景をイメージできましたか」のところ、めっちゃできました。テクノロジーが発達して火星とか木星とかに行ってる人類だけど、地上ではこういう懐かしい出来事が繰り広げられてて……みたいな感じの話、すごい良かったです。
ただ、なんかこう……最後らへんにバタバタっと色々エピソードがきてる感じがするので、これはもうちょっと前の方に前倒しで小出しでとかで出したりした方がいいかも。最初に読んだ時「後ろが詰まってて、前の方が割と余裕がある」って印象があったから、後ろの方に詰まってるものを前の方に出してきたらよりこう、読者も読者も掴めるというか、乗って掴めるというような気がしました。
【円山】
わかりました。
【ととり】
以上でございます。ありがとうございます。
- 山本Q太郎さんの感想
【山本】
最初のポイントからいうと、「最後まで読みたいと思いましたか」に関して言えば、こののどかな世界観を味わっているうちに読み進められました。どんな感じ(の世界)なんだろうっていうのを想像しながら読んでいけました。
一言で表すとしたら、読後感としては「罪のないいいお話だったな」という。
「小説内の未来イメージ」は多分できてると思うんですが……『アニマトリックス』っていう、『マトリックス2』の時の並行して上映してたオムニバスの中に『ビヨンド』っていう子供たちが超能力を使って遊ぶシーンがメインのお話があるんですけど、その映画とか結構思い浮かびました。あと横浜とか。のどかな場所がイメージとして思い浮かびました。
最初に読んだ時は、未来を舞台に昭和のノスタルジックなジュブナイルをやるっていうようなことがある程度目的なのかなっていうふうには受け取りました。で、文中の子供っぽいセリフ回しというか、喋り方みたいなものも(あえて技法として)挑戦しているのかなっていう気はしました。
あとは、みんなお互いに罪がなく、可愛らしくて優しい世界観っていうのが良かったです、幸福感があって。
多分、まあ、主題というか、一つやりたかったであろう「未来だけどノスタルジックな雰囲気」みたいなのはすごい、うまく出てると思いました、古い商店街というの(舞台として)をチョイスする時点で、いいいなっていう感じがします。子供達のウブな感じとかも、なかなか良かったです。
お話は、分量としてよくまとまってる感じはすごいしました。バランスはいいのかなっていう、進行具合とか。なので特に、どこうというところはあんまりないんですが……
読み終わって歌の内容そのものが、全体的な……作品というか、お話の軸になってるので、ここはもうちょっと印象的になってもいいんじゃないかという気がしました。
タイトルが「夏の日のファンタム」っていうことで、これはあの、コカコーラ社が出してるファンタとかそういう飲み物をイメージしてるんですかね?
【円山】
そうですね。えっと、チェリオとか、ファンタとか、コカコーラがめちゃくちゃになったような、イメージです。
【山本】
炎天下の中子供が汗をかきながら、みんな飲んでるみたいなビジュアルイメージですか?
【円山】
はい。そうですね。
【山本】
なるほど!
お話的には、(一貫して)最初の歌がテーマになっているかと思うのですが、最後の方になってようやく、前半の「流行ってる歌」というのが前振りだったんだというのがわかるというか……途中まであんまりそこに気づかなかったりするので、歌の存在感がもっとあると、太いイメージができていいのかなと思いました。
そういえば「スパーランド」って造語なんですかね。こういうものが世の中にある?
【円山】
スパーランドって、ナガシマスパーランドみたいなものを勝手に――みなさんご存知かと思って、スパーランドというものがあるというイメージで勝手に書いてしまったんですが……
【招文堂】
スパーランド……(キーボードを叩く)…軽く検索してみただけですが、おそらく「スパーランド」はナガシマスパーランド発の造語ですね。
【円山】
すみません、それは私のミスですね。
【山本】
未来のそういう施設なのかなって思って読んでました。
【ととり】
ナガシマスパーランド的なもの、私は想像できましたが、説明文を加えた方が……娯楽施設とか。
【山本】
最初読んだ時、スパーランドという造語とともに、全く新しい施設を創作したのかなと思ったんです。なので、それだったらもうちょっと(スパーランドとは何なのか)わかりやすい方がいいかなと思ったんですけど……(スパーランドが)人によって認知に差のある言葉だったということですね。
気になったのはそこくらいですかね。そう感じです。
- 生きてるさんの感想
【生きてる】
まず、最後まで読めるか、でしたっけ? 自分は、未来も今と変わらない人の恋愛模様とか、青春とかが伝わってきて、この人たちはこれからどうなるんだろうって続きが気になるくらい読みたいなあって思いました。
一言で表すと何かっていうと、やっぱり……スクーリングの道路も暑そうだし、ファンタムも暑い中だからこそ美味しいだろうなって思うんで「夏!」
自分はすごくいい未来だなぁって思いました。200年経ってるのに、なんだかまだ変わらない感じが。そこがミソだと思うんですけど、未来感はホバーバイクとかさりげない表現、もう生活に密着してる感じっていうか、情景描写でいいのかなとか、(この世界観では)なんか家具がワープしたりすんのかなとか思いながら、でもそこまで描かなくてもいいのかなと思ったり……(この作品は)さりげない描写でちょうどいいんだろうなーって思いました。
で、人間関係が特に気になって。お父さんがいるのにいいよられてしまったお母さん、この後どうするんだろうって思った。
(求愛として)種をもらうんだ〜、って。花じゃなくて。なんか不思議だなあって思いながら、どんな種を貰ったのかなぁって想像してみたり。ケイちゃんがなんでそんないきなり、大人になっても一緒にいたいねぇなんて、不安そうにしているのかなぁ……なんて、これからどうなっていくのかなぁて思いました。
ファンタムが全然知らない飲み物なのに美味しそうで冷たそうで爽やかで。
何より良かったのが、最初の文章から最後まで、一人称の軽快なリズムで、男の子の口語で書かれてあって、すごく読みやすくて、トントンと一気に読める味になってたこと。
タイトルの通り、ファンタムがストーリーを繋いでて、いい(タイトルの)使い方だなぁと思いました、以上です。
- 招文堂の感想
【招文堂】
「最後まで読みたいと思いましたか」に対しては、すごくそう思いました。面白かったです。頭だけでなく全体を通してすごく。
一言で表すとしたら「夏の青春」って感でした。
小説内の未来のイメージも、問題なく、というか、すごい(伝えるのが)お上手だなと思いました。
私は結構、この情報の出し方、出し順というか、描写と説明がきちんとからんでいる感じとか、この主人公の男の子の考えていること、感じたこと、最近のエピソードみたいな……説明のための説明文がない感じとか、(情報が)全部ちゃんとエピソードになってる感じがすごく巧みであるなと思いました。面白かったです。
ちょっとノスタルジックなのもまたいいですね。これはもう完全に趣味ですけど。ノスタルジック感が「青春」を結構後押ししている感じはありました。
ケイちゃんの不安は伝わる?
【山本】
円山さん、みんなの感想を聞いた上で、さらに気になったことなどありますか?
【円山】
二節の部分、ケイという女の子が、突然将来に対する漠然とした不安を語り出すシーンがあると思うんですが……なんかそこが、うまく伝わったかな? と思ってまして。
女の子とか男の子とか思春期ぐらいの……中学生ぐらいですと、漠然とした不安抱えがちだなって思っていて、そんな感じをうまく伝えられなかったかなぁって思ったんですけど……
(読んだ参加者のみなさんで)ここちょっと気になった、こうすればいいんじゃないかなってとかあったら、教えていただけると助かります。
【山本】
表現したい、狙いみたいものはどういう。
【円山】
漠然とした不安を感じてるこの女の子が、なんかこう、(このエピソードを通過することによって)ちょっと安心した、みたいな感じが伝わってるかなと思いまして。その漠然とした不安の部分と言いますか、思春期ってそういうことあるよね、と……うまく表現できないくて申し訳ないんですが。
【山本】
思春期にそういう漠然とした不安を覚えたことがある人がいらっしゃったら……どうですか?
【招文堂】
私は割とありましたけどね。漠然とした不安。
【山本】
進路を迫られた時に対する「どうなるんだろう」みたいな不安とかですか。
【円山】
そういうことも、含めてですね。将来、進路、勉強、恋愛、生活、みたいな。ふわっとした不安。
【山本】
自分的には、(不安の描写について)違和感はなかったです。普遍的かはわからないけど、なんかこういうのがすごく気になるお年頃なのね、というふうに受け取りました、
【円山】
すみません、ざっくりした質問になっちゃって。
【ととり】
自分は読んだ時に(ケイの不安が)あんまり印象に残ってないなあ。ていうのはあったんですよね。多分、主人公がロクちゃんで、ずっとロクちゃん視点で書いてるから、ケイちゃんの心の内部までは入れてないっていう感じ。
【円山】
なるほど
【ととり】
ロクちゃんの思いはなんかこう想像できるんだけど、ケイちゃんの不安みたいなところまではシンクロできない感じがあったから、もしケイちゃんの不安感みたいなものも伝えたい、触れたいっていう感じだったら……もうちょっと、不安感を持ってるんだなっていうことがわかるセリフとかで底上げした方が良かったのかな。
サラッと読めちゃってそんなに残らない感じはありますね。結構いいシーンだなとは思うんですけど、せっかくだから、印象に残る感じになるともっと良くなってくる気はします。
【円山】
わかりました。アドバイスありがとうございます。
【招文堂】
これあれですかね、ケイちゃんの不安をお話の主軸にしたい感じなんですかね。
【円山】
この時点、主軸にはしてないんですけど……なんか(ケイの不安が)ポロッと突然出てくるようなエピソードだったので、彼女が持ってる複雑な感情が伝わってるのかなあって。
【招文堂】
なるほど、わかりました。そういう意味では、突拍子もなく進路の話を振ってくる時点で、(ケイが)けっこう悩んでいる感じは伝わるかな? という感じです。
【円山】
そうか。なるほどです。めっちゃ勉強になります。ありがとうございます。
『帰郷』
・読みづらさはないか
・詳しい説明のない用語が出てくるが理解できるか、イメージできるか
が気になっています
- ととりさんの感想
【ととり】
「読みづらさはないか」っていうところ。読みずらさはなんていうのかな、文章としては凄く上手に書けているんだけども、主人公の心や考えてることが文章として書かれているみたいな……主人公視点でずっと書かれてるですけど、主人公の考え方が、割と哲学者的なじっくり物事を考えるタイプっていう気がして。そういった意味で、スルスルとかサクサクとか読めるっていう意味合いの読みやすさは無いっていう感じ。
じっくりじっくり味わいながら、一言一言味わいながらゆっくりじんわり読んでいくタイプの作品だなって思ったので、そうゆう意味では完成度高いと思うんです。ただ、サクサクするする読めるタイプではないっていうところで、どう答えたものかなって思います。
読むとすごく考えさえられる、じんわり沁みてくるっていうタイプの作品だと思いました。
「詳しい説明のない用語が出てくるが理解できるか、イメージできるか」これは、いくつか未来ならではのモノ・発明品みたいなのが出てきてて、大体イメージはできたんですけど、主人公のアシスタントの……ロボットみたいなイメージかな? そのアシスタントっていう存在の説明がもうちょっとあったら良かったって思いました。「自分と同行が許されたのは、非人型アシスタント〜」が、アシスタントが最初に出てくる場面かな? 外見の描写ってこのくらいですよね。
【平坂】
そうですね、それ以降もアシスタントの外見に関して特に説明はしてないですね。
【ととり】
ですよね。非人型アシスタントで、なんかサポートするロボットみたいなものかな~というイメージはしていて……人型じゃないからご存知かどうか知らないんですけど、手塚治虫の火の鳥に出てくるロビーだかロビオだったか、ロビタか、寸胴のロボットが出てくるんですけど、ああいう感じかなと、想像したりしながら読み進めたりしてはいました。そこが、もうちょっと明確に「こんな形です」みたいなのがあったほうが良かったかな。
アシスタントくんが二人目の主人公とまでは言わないけど、主人公の相方として重要なポジションにいる気がするので、見た目とかがあるとより良かったかなって気がしますね。
結構この主人公が、あんまり感情を表に出さないタイプかなっていう気がして、それがなんか面白いというか。いろいろ不本意な状況に置かれているんだけど、それに適応して生きていってるみたいな……保護者と離されてひとりで生きてる、アシスタントもいるけど、ほぼひとりで生きてるみたいなそういう辛い状況にいるけど、それを耐えていて生きている感じなのが、魅力があるなと思いました。
どういう方向を目指すかにもよるんだけど、ところどころ印象的というか、アレっと思う部分……あまり感情を表に出さない主人公の感情が出てるシーンがありますよね。保護者の訃報が届いたっていうシーンで、自分でも驚くほどショックを受けたらしく~~っていうところがすごく感情が動くシーンだと思うんですけど、そこが割とサラッと流れちゃってるので、掘り下げてみても良かったのかなって気がします。
掘り下げる……「自分でもショックを受けたことに驚いてる」ってところを分析的に書いてみたりすると、うまく印象に残ったような気がするという感じ、かな。せっかく感情が動いている、美味しいシーンなので、旨みをもっと吸収したいっていう欲望が誕生しました。私には。
でもあんまりやりすぎると、主人公のキャラがブレちゃう恐れもあるから、塩梅が難しいんですけど……全体的に哲学者の脳内を見てるかのような冷静沈着な文章で、SFの世界観だけど、地球にも降り立ち、その地球の光景もちょっと懐かしい感じもありつつ、でも静謐な感じ。良かったです。
- 山本Q太郎さんの感想
【山本】
「読みづらさはないか」に関しては、主観者、主人公の心情が情感の動きがない人っていう設定で、読み慣れるまでそこに調整が必要だったとは思うんですけど、気がついたらその辺は全然気にならずサクサク読んでたっていう感じでした。
詳しい説明のない用語が出てくるがイメージできるかに関しては、(山本は)SFは多分読み慣れていると思うので、そんなに引っかかるところはなかったです。
非人型アシスタントが人型じゃない(としか情報がない)のは、どうしようかと思ったんですけど……主人公の横をふわふわボール型の何かが浮かんでる感じで読んでいたんですけど、(アシスタントが)途中でベルトを締めるみたいなアクションをしたりするので「わ、どうしよう」と。ボールから急に手が伸びた感じがして……そういう調整(が必要な個所)は、読んでてありましたね。
世界観というか、クールなお話の質感がすごい面白くて良かったです。俺が一度やってみたかったやつじゃん。っていう。羨ましい感じが。
あんまり読んだことはないですけど、サナトリウムものっていうんですかね。ああいう感じの雰囲気と結構大胆なディストピアというか、地球崩壊シーンが良かった。崩壊している地球は良かったですね。
最初読んだ時の、主人公の無くしてしまった感情を手探りで探しているような繊細な頼りない質感、良かったと思います。印象的で。後半の、(主人公の)気持ちが戻ってきたから保護者みたいな人がどういう人かわかってくるのが、主人公が興味(という感情)が戻ってきたからなのかなって。
一番最後で保護者の性別がわかるので、その辺で、変化というか歩み寄りというか、主人公の気持ちみたいなものが戻ってきてるような表現をしようとしているのかなと受け取りました。
そうは言いつつ、最初の方は……この作品ってコンセプチュアルというか、世界観とかかっちりあるのでなんとなく作ってるわけではないとは思うんですけど――その上で、書きたいことがなんなのかっていうのに、最初はフォーカスせず、いろいろチャレンジしながら書いてみてるっていう気はしました。
そういう不確かさみたいなものがありますよね。例えば主人公がどんな病気なのかもわからない、その保養所にいる人たちがどういう症状なのかもいまいちわからないといえばわからない。血を吐いている病気なので具体的に体に変化が起こる感じがするんですけど、入院している人の中には、造花の花壇に水をやる人がいて(この表現は結構キテていいなと思ったんですけど)、病気というよりはメンタルを病んだ感じがして、なんか不具合のある人たちが集まっている不確かさみたいな……作品世界の儚さとか不思議さとか不穏な感じとか出てて逆にいいのかなと思いました。
作品としては、伊藤計画の『ハーモニー』とか質感が似てるかなと思いました。あと『ここは全ての夜明け前』とかも結構似ている感じがしたというか、想像できたイメージがそっちの方に浮かびました
- 生きてるさんの感想
【生きてる】
とても繊細な胸をうつ文章だなと思いました。育ての親が最初は希薄だったんだけど、話が進むにつれ大きな存在になっていく。最後に花を手向けてそれとおんなじものを飾るっていうのもすごく変化を感じるし、主人公が最初は無機質な病院にいて、だんだん病院に慣れてきて、葉っぱを数えるように、周りの人の死を感じるくらいだったのが、保護者の死をきっかけにすごくショックを受けて感情が揺れ動いてっていう。起承転結がすごくあるなあと思いました。
周りはすごく静かなんですけど、主人公の中で大きな変化があって、そこが成長ではないんですけど、一皮むけたのかなぁっていう感じがあって。いろんなことを考えながら主人公が行動を起こしている様子が、読み進めやすくて良かったです。
周囲の無機質な感じとギャップがあって、主人公の中に怒涛の感情があったり、海に沈んでる家を見てガーンとなったり、装具を外したくなるっていう潮の匂いがわーってしそうな感じをひしひし感じて、いいなと思いました。
自分の中だとアシスタントの姿は、ずっとブレずにスターウォーズのR2-D2。それできてて、だから違和感なく読めました。腕もあるし、喋らないけどこっちでは喋るし、あんなのが横にいるのかなぁって思って。
文章も、句読点さえつけばすごく読みやすくなると思います。
【平坂】
そうなんですよね。詩を批評してもらう所で、自分の詩を提出したところ、ワンセンテンスが長いって言われて、一文が長いから区切ってください。って言われたんですよ。昔に。
【生きてる】
でも、(句読点が少ないゆえの読みづらさはありながらも)すごくいい話だなぁって。最後まで読めると思います。
わからない用語はないかっていうと、自分の知識不足で「バイタル測定」がわからなかったぐらいで、他は大丈夫でした。
- 円山さんの感想
【円山】
私がまず感じたのは、同じじゃないですけど……SFっていうジャンルを書いていて「あ、SF書いてらっしゃる、平坂さん」ってすごい喜んで読んでみたら、書く人が違うとこんなに話って変わるんやなあって思ってすごく面白かったです。
乾いた感じがする未来世界と病の孤独感が、すごいひしひしと沁みてきて、でもその乾いた感じの中に、美しさっていうとアレなんですが、潔さがあるんですよね。わりきられている潔さ的なものが。それでなるほどなって考えさせられました。
指摘していただきたいっておっしゃっていた読みづらさ、用語の理解とイメージについては、私はしっかり読めたし、とてもわかりやすかった気がしたし、すんなり入ってきました。
ただ、私がすごくSFが好きで勝手に脳内補完しちゃってるだけかもしれないので……でも私は好きだなって思いました。
すごく印象に残ったシーンがありまして、主人公が保護者の人からもらってたメッセージで「自分の思う道を行きなさい」って言われてたと思うのですが、その言葉が呪いにも解放にもなったっていう気持ちすごく理解できちゃって、あわかるーってなりました。なるなーなんかなー。わかるぜーってなりながら拝読しておりました。
でもラストシーンで主人公の保護者をしてた方のために居場所をね、最後に主人公が――自分の居住スペースでしょうか――に作ってあげるところが、主人公の優しさを感じて良かったですね。
すごく考えさせられました。故郷って、めっちゃ嫌なこともあったりしたのに、いつまでも忘れられないものであるなってことが、刺さりました。めちゃくちゃ考えたし、興味深かったですね。
私はアシスタントロボットくんはニーアオートマターとかのちっちゃいロボみたいなの。飛んでるやつをなんとなく思い浮かべながら読んでました。
いつかは故郷のことも忘れていくのかなって思ったりも、考えさせられたりもして、でもやっぱりいつか行ってみたいって気持ちもわかるなぁって思いながら読ませていただきました。
- 招文堂さんの感想
【招文堂】
私は運営で作品も出してないのに、口ばっかり出して申し訳ない気持ちをひしひしと感じているんですけど……今回私は作品を出してないので、話半分で聞いてくださいね。
読みづらさは全くなかったです。次の「詳しい説明のない用語」と絡んじゃうんですけど、アシスタントの「概念はわかるけど、外見はわからない」っていうのが気になるといえば気になるという感じかな。
最初にただアシスタントって言われた時には、私は勝手にスマホのSiriみたいなのをイメージしたんですけど、その後「非人型」って言われてクルッと今まで見てた景色がかん違いだったことに気づかされてしまうというか……読み手としてはそんなに嬉しくないどんでん返しがここで意図せず起こってしまっているので、何か(外見について)一言あると、より没入感がそがれずにいけるのかなと思いました。
この作品は書き出しがめちゃめちゃ上手いなと思っていて。一番最初に病気、で、先生に連れられて「静養室」で休んでるんですよね。保健室じゃなくって。まだこの段階ではSFであるということはわからないはずですけど、明らかに、ファンタジー。リアルに即した話ではないことが一発でわかるみたいな、すごく上手な書き出しだなと。……上手と言っちゃ(上から目線で)アレですけど、感銘を受けたというか現実に即してない話を始めるのが本当にうまい。と思いました。
小説の話ではなくなっちゃうかもしれないんですけど、(本文に)ちょっと変わったフォントを使ってらっしゃると思うんですよね。
【平坂】
多分、こぶりな明朝とかはんなりとかそこらへん。
【招文堂】
読みづらいとかではなくて、あんまり他の方が本文に使わないタイプの……ちょっと装飾感のある昔の岩波文庫みたいな味のやつを使ってらっしゃるので、今回の世界観はすごく合っていて、デザイン的にもすごく素敵だなと思いました。
みなの感想を聞いて…
【平坂】
みんなのアシスタント像を見ることができて、作者としてはちょっとしたり顔というか。なるほどみんなこうゆうふうに見てるのかっていうのがわかる感じでした。
オマージュしてるシーンが、映画二作品分くらいあって。火星から地球へ移動する際のカプセルはフィフス・エレメントの飛行機内で昏倒さえるシーンをオマージュしてたりしてて。
で、アシスタントはロビタかインターステラーに出てくる四角くて足が速いやつ。をなんとなーし……作者としてではなく、自分も読者として読んだ時に思い浮かぶのはそんな感じ、そういう形のアシスタント像でした。
このアシスタント像っていうのを固めちゃうとなんか嫌だなって思っちゃって、であまり説明はせずに突き進んでしまったというのはあります。みんなの想像に任せたいみたいな。
結構文章を硬めに書いたつもりだったので、それで読み進めやすいと言ってもらえたことはかなり嬉しかったです。
この話は、元ネタというかインスピレーション元が自分の夢、夜寝てる時に見る夢にありまして、その中の1シーンが「群青色の一面の海」だったっていう。ここに行き着くまではガガガがっと書いたって感じになりますね。
夢を鮮明に覚えていることが多いので、よく小説の書き出しに描写を持ってきて使ったりとかはしてますね。その中ではよく書けた方じゃないかなってちょっと自負もあります。ありがとうございました。
『灰は灰に』
とくになし
【山本】
次は自分の作品ですね。ととりさんからおねがします。
- ととりさんの感想
【ととり】
この作品で特に聞きたいこととかそういうのはあるんでしょうか?
【山本】
あ、事前に提示はしてなかったと思うので大丈夫です。
【ととり】
ざっくりと感想を言っちゃって大丈夫ですか?
【山本】
大丈夫です。
【ととり】
では、自分が読んだ印象では、不老処置を受けた人と受けてない人の二人の登場人物の葛藤みたいなのが主題かなって思うんです。作品自体が第一話だけだからまだ続きがあって、全貌がわからないっていうのはあるんですけど……多分、死、死ぬっていうことがあまりこう身近ではないリリさんっていう人が、後半で実際に死体と会うみたいな感じのところまでっていう感じで。
なんだろうな、すごい魅力的なエピソードだとは思うんです。ほぼ不老不死みたいな世界の中で実際の死者と出会う、っていうのはいいと思うんだけど、それを書き切れてるかっていうと、まだもうちょっと煮詰めれそうな気はする。っていう印象でしたね。
多分悩みながら書かれてると思うので、まだ書き途中だとは思うんですけど、不老処置を受けること、受けないことに対するそれぞれのキャラクターの葛藤とか思いとかをもうちょっと掘り下げて、そんで具体的にした方が、読者が「わかるその気持ち」とか「あ、それやだよね」とかそういう気持ちがおきて、よりぐっと物語に入っていけるんじゃないかなって思いましたね。
寿命がちがうって、今の私たちの生活の中でいえば、人間とペットの犬猫とかに相当する出来事かなと思うんですけど、犬とか猫とか飼っていて彼らの方が早く死んでしまうっていう時に、ペットロスとかですごい辛い思いをする人って多いと思うんです。それの人間版ってなったらすごい辛いと思うんですよ。だから、サブロウさんが不老処置を受けないっていうのは、リリさんにとってすごい残酷なことをしていると思うんですけど、そこに対するサブロウさんの葛藤とか……もし自分がサブロウさんの立場で不老処置を受けないとなるとしたら、それに対する思いみたいなのを相当強くないとリリさんに対して申し訳ないことをしちゃうと思うから、そこへの理論武装……っていうとおかしいんですけど、絶対受けないっていう発想に至るまでの経緯みたいなのってガッツリあると思うんですよね。そこら辺を想像して描いてあげると、より作品の重みみたいのが出てきて二人の間柄とかすごく説得力のあるものになるんじゃないかなっていう気がしました。
すごくいい素材を描こうとしているから、さらにその素材の旨みを引き出して料理して読みたいって思いました。ちょっとざっくりなんですけど、そういう印象があります。
- 生きてるさんの感想
【生きてる】
「死について」がテーマっていうことで、自分は山本さんの作品の方に伊藤計画のハーモニーを思い出すなって思いました。あれとはまたちょっと違うオリジナリティにあるドラマになってて。で、「えーここで終わるの」って感じで、もっと続き読みたいなって思いました。
サブロウの告白から、その後のリリの火葬場に勤めることになったっていうところまでが、どれくらい時間が空いてるのかなって思って。結構長く空いてる感じは受けたんですど、サブロウは生きてるんだろうかとか。
リリは最初は何にもわからない状態で、不老処置も何にも抵抗なく受け入れて……っていう、ただの女子高生みたいな、そういう感じだったんですけど――年齢が違ったらごめんなさい――そこから考え始めていくっていうところがすごくいいなと思いました。一緒に考えていく感じで、共感しながら読みました。
リリが等身大なので重くなりすぎなくて、火葬場でもすごく平和な感じだし。未来の話ではあるんですけど、ずっと身近な話題として「死ってなんだろう」って思いながら読みました。
自分だとどうしても「今を生きる」とか、「その日の花を摘め」っていう昔の格言だとか、紀元前のセイキロスの墓碑銘に刻まれている「死を思うからこそ今を大切にしよう」っていう結論に至っちゃうんす、死がテーマだと。
山本さんが書かれるこれからの「死について」。リリが何を見つけて感じていくのか、見たいなって思いました。
文章でいえば、すごく考えながら書かれたんだろうなと。孤軍奮闘しながら。で、最初のサブロウの告白と、その後の文章の量のセリフの多さというか、文書の詰まり具合が違うかなと思って……そこがちょっと気になりました。
- 円山すばるさんの感想
【円山】
死を不老処置によってある意味克服して、死をエンターテイメント的な感じで消費する人たちがいる一方で、死者も日常的に発生しているっていう、なんかすごい世界観だなって思いながら拝読しました。
死ぬことをやめたっていうと語弊があるかもしれないですけど、そういう人たちが大多数になる中で、自分の死をパーティにして盛大に催し物にして死んでいく人たちのその死に様と言いますか、そういう感じのことが多様性として受け入れられているっていうシーンが、凄まじいなって私の価値観では思いました。ただでもその一方では、自からの意思に反して死を受け入れざるをえない人たちもいるっていう世界観が現代に通じる皮肉とも感じるなとか、いろいろ考えながら読ませていただきました。
リリにとっては、死っていう概念が、世界にはあることとして知識としては知ってるんだけども、実際お葬式行ったりとかたぶんしたことなかったのかなって、考えました。で、その中で仲のいいその人が死んじゃったのかな? 最後の最後のシーンで、ご遺族が泣いてらっしゃるシーンで何度も謝る声をリリは聞いたみたいなシーンがあって……どう感じたのかなとか、めちゃくちゃすごい物語だなと思いながら考えながら読まさしていただきました。
生と死の、その発想の逆転というか、なんかこういう世界だったら、価値観ってどうなるだろうっていうのを上手く表らしていらっしゃる、なんかすげーな、すげーを連発しちゃって申し訳ないんですが、すいません。とても興味深かったです。
- 平坂Nさんの感想
【平坂】
ちょっと思ったのが、洋画の『タイム』わかります? 映画で『タイム』っていうやつがありまして。設定はですね、人類は時間をお金に変えて生きている。で、二十五歳で成長が止まって、そこからは生きていく時間が腕に印字されて、金持ちはその時間を使って長く生きられる、貧乏人はせかせか働いても一日分の時間しか稼げない――みたいな世界観なんです。文体の雰囲気と死、25歳から受ける不老処置という設定で、ちょっとこの映画に思いを馳せてしまったというか。
【山本】
すごい面白そうですね
【平坂】
はい、ディストピア系なので、面白いです
【山本】
ただこれ読むと引っ張られそうですね、怖い、
【平坂】
映画きついですかね
【山本】
内容がパクリみたいに、こう、引っ張られて似てきちゃうと怖いから、書き終わったらの楽しみにさせていただきます。
【平坂】
よかったらぜひ。
ここ好きだなって思ったところがありまして、「七色の人生」というところの「生きているために生きているという文言は成立するんだろうか」っていう、おそらくリリの自白が、ちょっと哲学的で好きだな。
私含めて三人の書いたSFが(感想会の場に)あって、こんなにも毛色が違うのかと。早く続きが読みたいですね。
車でのサブロウの告白のシーンが……ドライブしながらのシーン、ここ絵として見た時に、美しい風景なんだろうなと、思いを馳せていました。車の窓を開けて、その車の窓から入ってくる風にリリが髪を靡かせているイメージができて。
専門用語が何回か出てくるんですけど、結構わかりやすくて、ここはちょっと見習いたいなと思ったところです。リリが葬儀屋さんに就職したときの先輩職員さん、スライトリーさんも……特に描写はなくてもいいのかもしれないんですけど、これわかりにくかったかなぁってちょっと思いました。(追加の描写が)なくてもいいけど、あったら想像しやすいなくらいの感じで。
あと、これは難癖に近いあれなんですけど。この時代にも位牌とか火葬場に位牌があるんですか? 火葬場はなんとなく「灰は灰に」のテーマに沿っているから、存在しておかしくはないんだろうなと思うんですけど、位牌とか、仏教なのかなこれはみたいな存在感がちょっと。
私的には食べてる時にはちょっと当たった卵の殻ぐらいの違和感はありました。この世界に位牌があるんだ。みたいな、ちょっとした驚きが。
【山本】
イハイって……仏教の位牌で書いてたんでしたっけ。
【平坂】
はい。仏壇にある、ご遺族の。
【山本】
ほんとだ「遺灰」が仏教の「位牌」になってますね。多分これ漢字のミスだと思います。
【平坂】
じゃあ問題はないです。
【山本】
なるほど……でも、これは気をつけたほうがいいですね。
【平坂】
そうですね。ちょっと卵の殻。
- 招文堂の感想
【招文堂】
提出いただいた時に、今度招文堂で主催するアンソロジーに(この作品を)寄稿してくださる予定と聞きおよび、すごく楽しみだなと思いました。
「七色の人生」とか「サブロウの告白」とか、章の名前なのかなと思うんですけど、この章の名前も一個づつ可愛いし。
一番いいなと思ったのは、何となく現代日本に、現代社会に居なそうな苗字や名前の方がちょこちょこ出てきてて、なんかその、ちょっと無国籍な感じがSFっぽさを引き立てているなと感じたりしました。
まだシーンのモザイク状態なので――いや楽しみだな、っていう感想が先に来てしまうんですけども――結構このあと書き足して、いろいろ一個につなげていかれるのかなと思ったんですけど、このモザイク状の時点でも結構面白くて、こういうモザイク状に話がどんどん進んでいくみたいな構成でもできそうな、ちゃんと世界観の背景が練られている感じがしました。
まだ書き途中だと思うので、話半分に聞いていただきたいんですけど、今回はいつもの山本さんよりも少し句読点というか一文が長めの作風でやってらっしゃるのかなという感覚があって。もうちょっと区切ってもそんなに読み心地は悪くならないのかなという。
今パッと目についたところだと「門を潜ると白い四角い建物は見上げるほど高く黒い煙突はさらに見上げるほど高く伸びていた」っていう一文があるんですけど。「門をくぐると白い四角い建物は見上げるほど高く」と「黒い煙突は~」で主語というか主部が変わってるので、この継ぎ目とかは点入れポイントかなと。
でも句読点は全然なくても読めているし、句読点が少ないこともまたそれはそれで、個性と読み味なので、趣味というか、やりたいことを損なわない範囲でという話でありますが、もうちょっと点があると私は読み良いかな思いました。でも全体的にとても(書き上がりが)楽しみです。っていう感じです。
死を取り扱う作品には注意書きが必要?
【山本】
テーマ的に「死について」を書いているので、人によっては読みたくないタイミングっていうのはどうしてもあると思うんですよ。例えば身近な人を事故でなくしたばっかりの人とか結構きついのかなと思ってて。
で、もし(この作品を読むことに)抵抗があった方がいらっしゃったら、どういう感じだったとかありますかね。
【招文堂】
この作品に限らず、広く創作をする人は気になる話かなと思います。これは完全に招文堂というか、書き手である招文堂(の主催であるやまおり亭)の個人的な意見を言うと、私はそこを山本さんが気にする必要ないかなと思っていて。
なぜなら、読み手はうわっと思ったら本を閉じることができるので。たとえば映画だともうちょっときちんと配慮が必要だと思うんですよね。映画とか写真とか動画とか、抽象的ではない表現媒体なら。いきなり実写で人が死ぬところを、フィクションだとしても、見てしまったら「うっ」て思う人は結構いると思うし。
けど、少なくとも小説に関して言えば抽象的な……というか抽象的であることに面白みのある芸術の一つだと思うので、そこは少なくとも――文脈によりますけどね――今書かれている部分に関しては、配慮しなくてもいいのではないかと、私は思いました。今後どれだけ具体性のある、どれだけ精密な緻密な描写に筆を割くかで、またバランスは変わってくる気がしますけれども。
【山本】
確かに、読者に慮るのも烏滸がましいといえば烏滸がましい。信頼というか、委ねちゃうのはひとつですよね。
【招文堂】
でもその、「大丈夫かな」と思う感覚はめちゃめちゃ大事なことだとも同時に思います。
【山本】
今回の場合、(ワークショップという)感想を書くために半ば強制的に読ませてしまう場ではあったので、作品を提出してから「あれ、そういえば大丈夫だったかな」とも思ったっていう。
【招文堂】
そうか、確かに……そういう視点は、私にはなかったですね。さすが主催だ。
【山本】
それも今まで忘れていたので。
【招文堂】
そういう意味では、今回のワークショップは「ジャンル問いません。成年向けでなければ」と言って募集をしているので、「人間が死んでしまう描写があると絶対に読めないです」って人はそもそも参加されていない可能性が高いんですけど……でも事前にアラートはかけてもいいですね。って、すみません、運営と主催の打ち合わせみたいになってきてしまいました。
【平坂】
人の生死を問われちゃうと、私は出せなくなるから困りますね。
【招文堂】
そうですよね。
【平坂】
バチバチに死んじゃってるんで、どうしよう。
【ととり】
めっちゃ私も人を(作品内で)殺してるから……平坂さんは一人だけど、私は(仇討ちの話で)5、6人殺してるから、ちょっとほんとに。
【招文堂】
人の死というのをめちゃめちゃタブー視するのも、あんまり良くないというか、一種偏った視点であると言えるかもしれないですね。
世の中には人が死ぬのはいいけど、犬が死ぬのは絶対ダメっていう人もいるし。普段は平気な人でも、昨日飼ってた金魚が死んじゃったところでお刺身食べるのって躊躇すると思うし。
よほどセンシティブな描写を緻密に具体的に「うわっ」て思わせることを目的に書いていなければ、だいたい大丈夫なんじゃないかな、文脈によりですが。これ曖昧な感じになっちゃうんですよね。
【山本】
言い方としては、そういう(曖昧な)言い方しかできない部分もありますよね。あとは、基本的にはみなさんフィクションを作る立場の人であるというのは(ワークショップの主催としては)信頼感というか。
【招文堂】
そうですね。それはとてもあります。
感想会を終えて
【山本】
あとはじゃあ。全体通して気になることや聞きたいことがあれば。
【ととり】
あの、聞こうかどうしようか悩んでたことを思い切って聞いちゃおうかなと思うのですが……円山すばるさんから感想を先にもらってた分、そこにグラフがついてますよね。で、みなさんのグラフと私のグラフを比べた時に、私のは「面白さ」っていうところがちょっと低かったから、円山さんに面白いって思ってもらうにはどうしたらいいんだろうって思ってて。
円山さんの面白さの基準とかあったら、教えてほしいなと思ったんです。単純に好みの問題かもしれないから難しい問題かなとも思ったのですが、ちょっとヒントか何かいただけるとすごく嬉しい。
【円山】
もう、ほんとに好みの問題だったので……なんか変なグラフつけちゃって申し訳なかったです。
【ととり】
他の方の作品と比べた時に、たぶん(円山さんは)哲学的な要素があった方が面白く感じる方なのかなと思ったんですけど、そういう感じなんですかね。
【円山】
なんだろう。私はどちらかというと、静的な、静かな物語がすごく好きなんです。なので、その観点から「面白さ」グラフの値が下がったというかのかなと思いました。
そもそもグラフの項目が「私が小説を書くとき大事にしている項目はこういう感じ」という考えで作ったものなので、項目がもっと違う感じだったら、またグラフのパラメーターも変わってきたのかなって思います。ほんとに好みの問題かなと思いました。申し訳ない。そんな感じです。
【ととり】
わかりました、ありがとうございます。
【平坂】
そういえば、みなさん、執筆時間ってどれくらいかかりましたか?
【山本】
執筆時間。ととりさんどうですか?
【ととり】
えーとね、書いてる時間トータルで言ったら3日ぐらいじゃないかな。です。
【円山】
私は、えーと、私も3日ぐらい最初かけて初稿完成させていました。でもそれが嫌になっちゃって全部破り捨てて、2日ぐらいかけて今の感じに書き直しましたので、5日ぐらいだったと思います。
【山本】
自分は多分長くて、半年以上書き続けていると思います。ですが、膨大なメモが大量に残っているっていう感じで、ずっと書いてたわけではないんです。手をつけ始めたのは、多分一月とかで、そのあたりの日付から、いろんなプロットとかメモとかが大量にあります。
そのプロットやメモをどうまとめるかわからないまま、(今回のワークショップが)それをまとめるきっかけにもなるかなと思って、今回はそのメモをつなぎ合わせて出したっていう感じです。
【平坂】
私のは……夢で見たって言ったじゃないですか。ガバって起きてすぐに、このシーン、病気実家帰ると家が海、死にかけて帰る。みたいな感じのプロット書き出して、そっから3時間ぐらいかけて第一稿ができましたね。
で、そこから徐々に見直して、用語統一させてっていって書いて、ものの完成は3日ぐらい使って書いたっていう感じですね。なんか、寝ぼけて書いたにしては上出来じゃねぇかっていう。
【生きてる】
自分の場合は、作品自体が3年前のもので――ちょっと記憶が曖昧なんですけど――1週間ぐらい推敲の時間をかけて書いたかな。アンソロジーのために書きました。コロナになる前の話を書こうという企画がありまして。
【平坂】
ありがとうございます。
最後に
【招文堂】
最後に山本さん締めていていただいて、お願いします。
【山本】
この度はご参加いただきありがとうございました。多種多様な読みごたえのあるものが、たくさん出てきてびっくりしました。
【招文堂】
本当に今までのワークショップで一番こう、作品のバリエーションがあった感じがしました。
【山本】
そして濃厚な多種多様な濃厚な、すごいですね。……ということで、このワークショップがみなさんの役に立てたら良かったなと思います。
【めいめいに】
すごくいい時間を過ごせました。
勉強になりました。
ありがとうございます。
ためになりました。ありがとうざいます。
ありがとうございます。
【山本】
三時間ぐらいありましたが、ご参加ありました。