すいとん自由形

もりもりご飯アドベントカレンダー「辛さを爆破する(したい)食事メニュー表 Advent Calendar 2024」へ寄せて。

辛さを爆破する(したい)食事メニュー表 Advent Calendar 2024 - Adventar
大変なとき、むしゃくしゃしたとき、この気分を吹き飛ばしたいときに食べてしまうもりもりご飯はありますか?その際のメニューや、それにまつわるエピソードをお書きください。「そういう日もある!」ということを、みんなで分かっていきたいので。テーマに沿...

「辛さ」とは「寒さ」である。

師走の中旬、めっきり冷え込んできましたね。しかし、ここで言う「寒さ」は気温によるもののみにあらず。

仕事が予定通りに進まなければ、肝が冷える。小説やエッセイの執筆が思い通りにいかなければ、己の無力に、そしてすべてを成し終えた後のビールが今夜もまたお預けとなる未来に胸が寒々しくなる。そしてお金がなければ懐が寒い。寒いとすべてが辛い。

ただ「寒い」のもよくないが、もっとよくないのは「なんだかずっとうっすら寒い」という状態だ。

思うに、「なんだかずっとうっすら寒い」というのは、慣れない長襦袢を適当に羽織り続けている様によく似ている。動くたび制御しきれない薄膜が身体に纏わりつき、羽織っているだけの何かが定期的に肩からずり落ちるのを片手間になんとかし、片手間になんとかし続けているものだから最後には引きずっているモノの裾がこたつ机の上に置いてあったマグカップを倒し、淹れたてのインスタントコーヒーが賃貸の畳にぶちまけられる。こうなる予感はなんだかずっとうっすらあった。やっぱりこうなったね。あーあ。何もかもがオワリです。

何もかもがオワリ。こんなときは、疲れて頭が回らずお金もあまりかけたくなくっても融通無碍にやれる最強の一品、すいとんしかない。

すいとん。それは小麦粉を水で練り、団子状にして茹で、茹で上がったものを汁で煮て味わう料理。粉を練って茹でて味をつけるだけだから頭を使わないし、茹でる系の料理は調理過程で身体が物理的に温まる。炭水化物の塊と汁を同時に食べるから腹にも溜まりやすい。簡単であったかくてお腹いっぱいになるすいとんで、この冬はありとあらゆる辛さをまとめて爆破していこう。

【材料】

  • 小麦粉
  • (あれば)片栗粉
  • 好みの調味料かスープの素

まず、フライパンになみなみと水を張って火にかける。鍋も持ってはいるのだが、十年以上前に買った代物だからとっくの昔にテフロン加工が剥がれている。この鍋で練った小麦粉を茹でると鬼のようにこびりつくので、すいとんを作るときはフライパン一択だ。こっちはまだテフロンが生きてるから洗いやすいし。

湯を沸かす横で、小麦粉をどんぶりに入れる。カレースプーン山盛り4杯ほどだろうか。山は高ければ高いほどよい。もし家にあれば、同じくカレースプーンで片栗粉も山盛り2杯ほど入れる。

「もし」などと前置きをしたが、私の場合、片栗粉は絶対に入れる。片栗粉を入れるとすいとんが「もちもち」「ぷるん」となる。私はすいとんもうどんも水餃子も、とかく小麦粉を練って茹でて作る炭水化物にはもちもちぷるんとしていてほしい派なのだ。なんなら小麦粉と片栗粉を1:1にしたっていい。業務用の1Kg入り片栗粉を買おう。

こうしてできた粉類の山に、塩を適当に追加する。カレースプーン半分くらい?

次に、キッチンの蛇口からどんぶりへと、ちょっと控えめに水を注ぐ。カレースプーンで練る。レシピサイトなどを見ると「すいとんのタネは耳たぶくらいの固さ」なんて書いてあるが、こんなもんその日の雰囲気でよい。固いなと感じたら水を足し、緩いなと感じたら粉を足しながらおいしそうな塩梅に調整していく。最悪、ホットケーキのタネくらいの固さがあれば食べられるものになる。

このへんで湯が沸いてくる。すいとんのタネをスプーンですくって、湯に落とす。それを、フライパンの底が6割ほど埋まるまで繰り返す。タネがどんぶりに余るかもしれないが、それでいい。余ったタネはどんぶりにスプーンを突っ込んだまま脇に避けておく。

コンロの火と湯気で暖を取っているうち、すいとんたちがフライパンの底から剥がれて湯の中を転がりだす。茹で上がり始めたのだ。ものの本によると火が通ったすいとんは湯の上に浮いてくるらしいのだが、底の浅いフライパンで茹でているものだから、はたしてこのすいとんたちが浮いているのか、転げまわるうち偶然にも湯から頭を出しているだけなのかはわからない。

ほどよいところで、中くらいのサイズのものを湯から拾い上げて齧ってみる。煮えている雰囲気なら、湯に味をつけていく。茹で湯とスープの湯を別々に用意するような面倒くさいことはしない。茹で湯には小麦粉がちょっとだけ溶けていて、とろっとしている。蕎麦湯のようなものだと思えばよろしい。

ここでとうとう最後の材料、「好みの調味料かスープの素」の登場だ。私は疲れていると中華っぽい味がほしくなるので、鶏ガラと醤油と酢を湯に入れる。もしあれば、ごま油とかラー油もちょっと入れる。調味が面倒なときは、たまごスープの素なんかを溶かすとちょうどいいスープになる。

茹で湯がスープに変わる間も、すいとんは茹でられ続けている。汁椀を用意し、お玉で汁ごとすいとんをすくって盛り付け、立ったままその場で食べる。2、3個をはふはふとやって喫緊の飢えをしのぎ、ひと息つく。フライパンの中ではすいとんが躍っている。躍るすいとんには触れぬよう、そっと、余っていたタネを湯の中に投下していく。このあたりですいとんは焼肉食べ放題の様相を呈してくる。椀の中にあるすいとん、フライパンの中で茹でられつつあるすいとんに目を配りながら、タネの残量を心に留めつつ、もちもちぷるんであったか~いすいとんを口に運び、もっちもちとやっていく。タネの残量が心もとなければ、諸々の粉と塩と水をどんぶりに足して練っておく。練りつつ食べ、食べつつ茹で、湯が減ってきたら水を足し、調味料も足し、煮えたであろうすいとんを椀の中へと移動させたり、そのまま口に運んだりする。

焼肉食べ放題とは違って、すいとんにはラストオーダーの時間がない。自由に勝手に思うがまま、食べたいだけ茹で、食べて、おしまい。

タネは余ったら、ラップして冷蔵庫に入れておく。すいとんのタネは寝かせるとコシが出てもっちりのボーナスステージに突入するので、余ったらラッキーだ。明日、ちょっといいことがあるとわかっていると、冷蔵庫のドアを閉める手つきもやや丁寧になる。すいとんに飽きたら魚肉ソーセージを切ったものを混ぜて平たく焼き、チヂミみたいにしてもおいしい。

飽きるほどすいとんを食べ、温まった身体で眠気を感じたら、そろそろコーヒーを淹れなおそう。

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