運営を主にしていた招文堂の中の人、積極的に議論を進めないまでも各作品を拝読しておりました。せっかくなので感想メモを共有いたします。
また意見交換会を傍聴くださった方からも、感想メモを預かっています。ご承諾を頂けたので合わせて公開いたします!
招文堂の感想
氷上涼季さん『傘を咲かす』
■ゲリライベントは全力エンジョイに限る
ここすきです!
未紅のラフだけど前向きな気持ちがテンポよく出ているかんじ。
■一人暮らしの癖でつい。駅からすぐですし
雅伸に対して敬語なの!? ここまでのカタカナ多めでフランクな地の文とのギャップが楽しい~! ぐっと引き込まれました。
■険しかった彼の目許がふわっと緩まり、視線は未紅の足下に移動して固く止まった。~中略~大丈夫と言ったのだから笑ってほしいのに。
目許が緩まり、視線が下に移動したところで固定された状態って、もう笑っているのでは? と感じてしまいました。
「固く」で表情がネガティブに変化したのだとしたら、表情変化に初見で気づけなかったのは、この節が順接で続いており、かつ表情変化のタイミングを確信できなかったからかも。
「ふわっと緩まった」以降、どこかで逆接が入る&雅伸の表情が再び固くなってしまった瞬間を指定してあげると、誤読減るやもと思いました。
例)険しかった彼の目許がふわっと緩まり、【しかしその】視線は未紅の足下に移動し【たところで】固く止まった。
■未紅はまだその恩恵に預かれない。
・まだ~預かれない
→過去からやや先の未来まで恩恵に預かれることはない。未紅は何らかの理由でそれを確信している。
・まだ~預かれ【て/てい】ない
→過去と同様、この瞬間も恩恵に預かれなかった。
…といったニュアンスを感じ(かつ、ここは後者なのかな? と読み取っていたので)、どっちなのか気になりました。
■下心たっぷりな未紅、いいな……冒頭からずっと未紅の強かさに好感度が上がり続けている。
■未紅のためだけに使わせるというのはとてもいいアイディアだ。
アイディア→ここまでの未紅のカタカナ語選びからやや浮いているような気がする。 「アイデア」のほうが他の語とマッチしている? これはリズムの趣味の話かも。
■降るから、降っているからと再三言われたのに、ギリギリまで寝ていた未紅はバタバタしていつもどおりに傘を忘れた。
「降っている」という動作の継続を示す表現から、〈未紅が起床したときにはすでに雨が降り始めていて、外出時もなお降り続けていた〉という状況を想像したため、「雨が降っているのに家を出るとき傘を忘れることってあるだろうか?」と疑問に感じてしまいました。
再三のお小言、後半を「~している」でない形に差し替えると違和感が消えるかも?
例)降るから、90%だから~~など。
■壁に寄りかかることもなく、~中略~ 屋根の切れた先を向いている。
細かいニュアンスに関する話ですが、
・〇〇を向く
→動作主が〇〇の方向に姿勢を変える。
…この“姿勢を”の部分が、「向く」と「見る」の一番大きな違いなんじゃないかなと個人的には感じております。
前文からの流れでココの雅伸は直立している状態なので、雅伸が屋根の切れた先を「向いて」いるとしたら、それは雅伸ではなく彼の視線などではないかなと。もしくは「向いて」→「見て」など?
■推せる~
わかる~~~~~!
■雅伸はゴミ寸前の傘を未紅に示す。未紅はそれを奪って骨を外側に折ってやる。
う~~~ん好き!!!
パワフル解釈一致です。
■全体:雅伸の年齢がどのくらいか、表現したいことに差し支えなければ教えてほしいと感じました。親にガラケーの料金を払ってもらっていたということは未成年? それとも抑圧されている成人男性なのだろうか。どちらとも取れるような…。
雅伸が親の庇護下にあるべき年齢か否かで、ラストの「自分たちもせいぜい普通に見えていればいい。」の味わいが変わってくるかもな~と思ったためです。
※後日追加)シリーズものなら不要ですね!
多聞さん『髭の待遇』
■ブンカクサークル
ブンゲイでもブンガクでもないダジャレな捻りが、よくも悪くもこのサークルの「軽さ」を教えてくれてよきですね…!
■この場にどんな人がどのくらいいるのか、冒頭で知りたいかも。部長・登坂・砂原以外のサークルメンバーも同席していると思うのだけれど、人数はカフェテリアでテーブルひとつ囲めるくらい? それともほぼ貸し切り? 登坂くんがどのくらいの規模の集団にバカにされるのかで、前半の味わいが変わってくる気がするので。
■顔を覗き込まれ、慌てて他の原稿に手を伸ばす。そうですね、と言いながら感想をまとめるが言葉が思いつかない。
「えーと、この短編二つは読みやすかったと思います」とりあえず浮かんだことを口に出す。
~中略~
思ったこと、という言葉に、僕は手元の原稿に目を落とした。『髭の待遇』とだけ書かれた表紙。作者名はどこにもない。
『髭の待遇』以外の短編二つを手に取り
↓
感想を言って
↓
短編二つを手放し、再び『髭の待遇』を手に取った
…という流れかなと想像するのですが、3つの提出作品がどのように登坂の手元で扱われているのか、少し分かりづらくなってしまっているかも。
・「他の原稿」が示すのは何を起点とした〈他〉なのか。
・「短編二つ」が〈登坂の気にしている作品=『髭の待遇』〉とは別物であること。
・再び『髭の待遇』を手に取ったのはいつ?
この3つの情報を一言だけでも明示的に書いてあげると、状況がよりイメージしやすくなるかもと思いました。登坂が〈読者に明示されない、とある作品〉をずっと気にしているという冒頭はすごく引き込まれるので、そことのバランスが難しいのですが…。
■『髭の待遇』というタイトルが魅力的で、どんな作品なのかずっと気になる!
■「あのさ、この二作品は読みやすくて分かりやすかったと思うんだよ。でも、それ以上でも以下でもない」
この二作品=登坂の言っていた短編二作と同じ? 少し前の話題なので、「この」が何を示すか補足してあげてもいいかも。
■蔦に覆われた喫茶店の前で手が離される。
同じお茶するための場でも、どこか俗で大衆的なカフェテリアと、詩的で濃密な空間を想像させる喫茶店の対比! いいですね!!
■全体:短編としての纏まりがすごくいいな~と思いました。テンポと余韻が心地よい。このまま続いてもいいし、続かなくても気持ちよく終わってくれているかんじ。いや本当にテンポがよい…しみじみと…
月並海さん『魔女は熱帯夜とともに』
■冒頭の三文、繰り返しと対比がいいな~! 日常パートからお話が始まるのですが、ここでドンと〈主人公の抱える問題〉を明示してくれているからこそ、日常描写も飽きずに読んでいけるな~と感じます。
■私はハーフパンツから出た自分の脚を見た。真っ白い肌、夏らしさなんて微塵もない。
この前で夏らしさの象徴として「女子高生たちが【白い生足を晒して】炎天下を駆けて」いるので、対比としてやや効果が薄いかも?
この直後で焼けた肌をしているお姉ちゃんが出てくるので、いっそ女子高生たちの夏らしさからは足の色を排除し、お姉ちゃん/舞の対比に絞るのも手か…? これは好みです。
■魔女とオーバーオール、意外性があって好き!
■お姉ちゃんは部屋に入るなり、エアコンのリモコンを操作して風向きを固定した。
風向きを【自分のほうに】固定した→など、補足あってもいいかも。
■問題集の薄い紙を一枚めくり、
問題集の紙って薄いですよね…!
ディティールが細かく、現役受験生の一人称であることにめちゃ説得力がある。
■魔女のお姉ちゃんが高卒っていう設定、リアリティの加減が絶妙! 好きです…。
■全体:お姉ちゃんも舞もどこか身勝手で、そのせいでお互いに傷つくんだけれど、彼女たちにとって「自分がいちばん身勝手になれる相手」がお互いなんだなあ……青春もの的な気持ちよさのある、爽やかなお話でした!
草群鶏さん『たしかめるのは君の輪郭』
■相手もその気だ、すこしくらいいただいてもいいだろう――。
今の性格は調律のため作り上げてきたもの……と言いながら、ちゃっかりいただこうとしているアトリ。親しみが持てる健やかさだなあと思います。
■そしていまも、隣りにいる。ふたりならんで里を見下ろしている。
気持ちのよいリズム!
■キリエの視線は遠く見渡す景色に注がれたまま、怒ったように続ける。
〈キリエの視線は〉遠くに注がれたまま、〈キリエは〉怒ったように続ける……のだと想像しますが、前半と後半で主部のカバー範囲が微妙にズレるため、後半をどう読むか少しだけ迷ってしまいました。文を分けるか、主部を後半に置く形で調整してもいいかも。
例)【その】視線【を】遠く見渡す景色に注【いだ】まま、【キリエは】怒ったように続ける。
など?
■全体1:キリエとアトリの年齢はどのくらいなんだろうな~と思いました。キリエの身体が年相応に丸みを帯びてきたってことは16~18歳くらい? 短編なら気にならないけど、このあと長編になるなら、この段階で明示されていてもいいかも。
■全体2:壮大であろう外の世界が想像され、アトリの暗い予感があり、他に代えがきかない関係性崩壊の予感があり、長編の始まりとしてすごく素敵だな~と思いました! 長編の始まり、予言であれという趣味もあります。
エイドリアンさん あとがき
■!のあとは全角空けると読みよくなるかも。
■1番乗り
「一番乗り」でひとまとまりの言い回しなので、1は漢字のほうがいいかも?
■編集長のあとがきスペースがけっこうたっぷり取られているので、もうちょっと編集長のパーソナルな話をしてもいいのかな? と思いました。あとがきに何を求めるか、コンセプトの話にもなりますが…。
■全体:カジュアルな文体から賑やかな同人誌制作の様子が伝わってきます! 同人誌のあとがきって何を書いたらいいんだろうといつも迷うのですが、こうして制作過程を共有するというのは正解のひとつですよね。
※後日追加)読みやすすぎて、読みやすいことに意見交換会まで気づいていませんでした。これこそ真の読みやすさだなあ…!
花村渺さん『斎』
■人間か動物かどちらの病院にゆくべきか悩む僕のまえで当の妻があまりにすこやかにほほえむので
好きです! この病院に行かねばならぬであろう状況で、相手のほほえみを(比喩だとしても)すこやかと捉えられる主人公の歪さがよい…!
■平仮名多めの文体なので、「はこべら」の「は」と「てにをは」の「は」をときどき取り違えてしまいました。読みづらさはありつつ、この文体が強烈な個性も発揮しているので調整が必要かどうかは迷うところ。
■全体:妻のゆるやかながら無視しがたい変化が、静かな文体とあいまって独特の世界観を作ってるなあと思います! 鳴き声からして、あの半ば以降の妻の中にいるのは最早はこべらではない、猫ですらない何かなのだなあ。(もしかしたら最初からはこべらではなかった?)
起こっていることはホラーであるはずなのに、主人公の現実から乖離した思考を一緒に辿っているとそうは思えず、最後に自我が融解するところにも奇妙な納得感がある。おもしろかったです!
リスナーさんの感想
意見交換会を傍聴くださった山本Q太郎さん(@QtaroYamamoto)より感想メモをお預かりしました。ご本人の許可を頂けましたので、こちらで公開します。
「たしかめるのは君の輪郭」:くさむらけいさん
・最初のイメージ
思春期を迎え距離感の変化を意識し出した男の子と女の子関係性を書こうとしていると受け取りました。
・良かったところ
異国感や文様の文化など世界観は雰囲気があっていいと思いました。
・自分ならこうする
文様と文様を調律する様子をもうちょっと大げさにしてわかりやすくすると思います。
娘がもっと深刻な不調(癌とはいかないまでも、白血病や結核とか?)であれば、白文の持つ危険性やキリエがアトリを思いやる気持ちもより際立つと思いました。
キリエの文様能力がアトリのマイナスを打ち消せるようなものであると、見え方も変わって面白いかもしれません。
例えばキリエの力は「他人の文様の効果を無くす」とすると、アトリの能力的デメリットをなくすことができるが、メリットもなくなってしまう。ので、アトリの最悪の事態をキリエは救うことができる。とか。
ただ、ほのぼのとした世界観が心地よくもあるので、深刻なドラマを持ち込むことが良いかどうかは難しいところだと思います。
「魔女は熱帯夜とともに」月並海さん
・最初のイメージ
新しい世界に踏み出さなければいけない高校生の戸惑いや苛立ちが伝わってきて良かったです。
・良かったところ
魔女というフィクションがリアルな進路の選択肢になっているのは対比になって面白いと思いました。
・自分ならこうする
過不足なく展開しているので特に付け足すことは無いような気がしました。
将来的には妹が社会人になって姉の魔女業をビジネスモデルを考えて手伝うとか広がりそうな題材に思いました。
「斎」花村さん
・最初のイメージ
主従のような関係性が裏返ってゆく様が面白かったです。
妻の変貌していく様子もちょっとホラーテイストな不気味さがあって面白かったです。
・良かったところ
原因や因果を明確にせず、事態の真相はぼんやりとさせたまま進行させてゆくのは良いと思いました。
・自分ならこうする
妻が夫の性欲を煽る描写は入れるかもしれません。「猫の発情期の声がやけに悩ましく聞こえる」程度でも十分かと。そうやって獣感を強調すると妻の人では無くなってしまった感が強まるかと。
最初に悲劇的な結末を暗示しておき、悲劇として掘り下げると儚さが出せるかもと思いました。
妻の猫としての主張・目的・欲望みたいのは、獣性を強めて人間との差別化をするためにもう少し強くてもいいかもと思いました。
「髭の待遇」多聞さん
・最初のイメージ
「髭の待遇」が読みたくて仕方がなくなった。
砂原というキャラを作りたかったのか、「「髭の待遇」という架空短編作品を面白がる」をやりたかったのかどちらかだと受け取りました。
・良かったところ
捉えどころのないサクッとした展開が面白くて良かったです。
・自分ならこうする
ワンアイデア勝負で今のスピード感があってると思うので付け足すのは野暮に感じます。
「傘を咲かす」氷上涼季さん
・最初のイメージ
自分の考える男女間と違い関係性が繊細に書かれているところが面白かったです。
・良かったところ
自由な未紅のキャラクターが印象に残った。
日常の一コマを心の内面描写で描くのは良かった。
・自分ならこうする
人の関係性の感覚的な捉え方がテーマに思うので、関係性が蓄積してゆく続きを見て見たい。
同人誌あとがき エイドリアンさん
・最初のイメージ
「くわっちーさびら」が読みたくなった。
・良かったところ
たくさんの人が参加していて大変そうなのにちゃんと出来あがているのがすごいと思った。
・自分ならこうする
エッセイなので変えるところは特にないです。
わちゃわちゃと楽しそうな感じが伝わってきました。